中小型バックライトインバータの技術動向
1.小型高効率インバータ設計のポイント 1-1高効率インバータと他励共振型回路 冷陰極管用インバータ回路というと従来はBaxandall回路(コレクタ同調型発振回路)というものが主流であった。その回路例を図1に示す。
なお、Baxandall回路は通称"Royer回路"と呼ばれることもあるが、Royer回路とはトランスコアの飽和による反転動作をするものと定義されており、Baxandall回路をRoyer回路と呼ぶのは正しくはない。(Royer回路解説→) WEBページを参照すると多くのエンジニアたちがBaxandall回路をRoyer回路と称することに苦言を呈しているのがわかる。(CQ出版社の「トランジスタ技術」などにおいても繰り返し指摘されている→) Baxandall回路は部品点数が少ないので現在でも冷陰極管用インバータ回路に広く用いられている。 ところが近年、インバータ回路の制御用ICの集積度が高くなったこともあり、より高度な回路方式であるゼロ電流スイッチング(ZCS)型や他励型といった新しい方式が登場し、インバータ回路の小型化と高効率化が進んだ。
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これらの新しいタイプのインバータ回路の呼称については少々混乱があるので整理すると次のようになる。 新回路方式として最初に普及したICが他励型であった経緯から新回路方式=他励型というイメージが強くなってしまっている。しかし、全てを他励型と呼ぶのは本来ならば正しくない。正しくは図2及び図3のように、駆動方式と駆動される回路方式を分けて別々に分類し、それぞれの名称で呼ばなければならない。 新回路方式については、正しくは「他励共振型」或は「二次側共振型」と呼ぶべきである。 共振型という電源技術はACアダプターやスイッチング電源の小型高効率化の技術として普及し、現在では電源回路の主流となっている。 そして、冷陰極管用インバータ回路の分野においても同様の技術を応用したものが新回路方式インバータ回路である。 他励共振型というのは漏洩磁束型トランスの二次側に寄生容量を含んだ共振回路を設けたものであり、漏れインダクタンスLsと二次側の容量とが共振する。 そして共振点付近ではトランス一次側から見た力率が飛躍的に改善されることを利用したものである。(その解析のためには共振型トランスに関する知識が必要であるのでとりあえず簡単にまとめると→) 他励共振型回路はトランス一次巻線に流れる励磁電流を大幅に減らせるところから、トランスの発熱が減り変換効率が向上する。 さらに、電力変換を行なうトランスの大幅な小型化につながるというものである。 また、他励共振型回路はスイッチングトランジスタの発熱が減るという効果も併せ持っていることになっている。 一般の共振型電源の解説ではスイッチングトランジスタがONするスイッチングタイミングにおいて電流が最も少なくなるタイミングでトランジスタをONさせることができるため、共振型電源=ZCS(ゼロ電流スイッチング)というイメージも強い。
他励共振型回路の高効率の秘密をゼロ電流スイッチングから解説している多くの技術資料は迷信とまでは言えないが、右の図を見てもわかるとおり、かなりの矛盾を含んでいるといえる。 実際にはBaxandall回路のトランジスタの発熱が少ないことは周知であり、ZCS回路のトランジスタの発熱は若干多い。 一方、インバータ回路としての効率はBaxandall回路の方が低く、他励共振型回路の方が高いことは事実である。 これを、ZCS回路の効率が良いからであると説明しようとすると大きな矛盾が生じる。 それはとりもなおさず、トランスの力率改善効果による発熱軽減が支配的であることを意味している。他励共振型回路の高効率の秘密はZCSとトランスの力率改善効果が協調して成立する合理的な方式にあるのである。 1-2他励共振型回路と駆動方式 新回路方式のインバータ回路で言われる他励型、あるいはゼロ電流スイッチング(ZCS)型というのは二次側共振型回路の駆動方式のことである。 二次側共振型回路の駆動にはゼロ電流スイッチング回路や他励型が良く用いられるが、これは、共振型技術はゼロ電流スイッチング回路や他励型回路との相性が非常に良いためである。
トランスの二次側に共振回路が設けられている場合、その共振回路をトランスの一次巻線側から見たときの等価回路は並列共振回路と直列共振回路とが複合した回路に見える。(図4) この等価的に見える回路のことを「直並列負荷共振回路」または、「並列負荷の直列共振回路」と呼んでいるのであるが、この共振点付近のトランス一次側から見た電圧-電流の位相特性を回路シュミュレータでシミュレーションすると、図5のように複雑な変化をすることがわかる。この場合の負荷は75kΩから200kΩである。 そして、トランス一次側から見た位相特性が0deg.に近い点で駆動することにより、トランスの励磁電流が減り、力率の改善効果によって発熱が大幅に減るのである。 また、この複雑な位相特性のLC回路を安定して駆動するためにはゼロ電流スイッチング回路や他励型回路が適するのである。
これが、従来型のBaxandall回路が直並列負荷共振回路の駆動に適さない理由である。 実際に、Baxandall回路により二次側共振型回路を駆動しようとした場合、効率を追求しようとすると異常発振や図6のように周波数跳びが起こり理想的な駆動が難しい。 二次側共振型回路というのは二次側の共振回路の働きによりトランス一次側の励磁電流が少なくなることが最大の特徴なのであるが、Baxandall回路ではこの励磁電流を一次側の共振回路の電流として利用しているために、励磁電流をゼロにするということはできない。 すなわち、理想的に励磁電流がなくなるような二次側の共振回路の値を設定してしまうとBaxandall回路の発振が止まってしまうことを意味している。 したがって、Baxandall回路で二次側共振型回路を駆動するのはそもそも矛盾しているわけである。 結局、Baxandall回路で二次側共振型回路を駆動するためには、一次巻線側から見た特性が十分な誘導性になるよう、つまりは十分な励磁電流が流れるように一次巻線と二次巻線との結合をデカップリングしなければならないことになる。しかし、それでは二次側共振型回路の最大の特徴である「少ない励磁電流、少ない発熱」という特徴を殺しながら使うことになってしまうわけである。 1-3 他励共振型回路の採用状況について このように多くの特徴のある他励共振型回路は確実に採用を伸ばし、現在では台湾、韓国、中国における大型液晶モニタ及び液晶テレビにおいて新規採用される回路のほぼ100%が他励共振型回路方式となっている。 一方で日本国内では採用が遅れている。 採用が遅れている一番の理由が、Baxandall回路方式に比べて他励共振型回路方式のコストが高くなるということである。 即ち日本を除いてコストに余裕があるアジア圏が先に採用を決定し、コスト面で厳しい国内が新方式の採用に二の足を踏んでいるというのが実情である。 2.他励共振型インバータ回路設計の注意点 2-1 共振周波数の求め方 他励共振型回路においてはトランス二次側の共振回路が重要な働きをしている。 そのために高効率なインバータ回路を設計するために、二次側の共振周波数を正確に把握しなければならない。 二次側の共振とはトランスの二次側の漏れインダクタンスとLsと寄生容量、或いは補助的に設けられた共振コンデンサとの共振である。 したがって、二次側の共振周波数は次のようにして求められる。
2-2 冷陰極管インピーダンスとのマッチング 液晶バックライトの仕様書に記載される冷陰極管の定常管電流-定常放電電圧から冷陰極管インピーダンスZrを求めることができる。 この値は14インチ液晶バックライトにおいて通常は80kΩ~120kΩである。 高効率なインバータ回路を実現するには冷陰極管インピーダンスZr、二次側容量のリアクタンス 、トランスの漏れインダクタンスLsがインバータの駆動周波数においてほぼ次の関係になるようにする。 実際に回路シミュレータで駆動周波数の最適点を求めると、図5のように最適点は共振周波数よりも少し低い周波数に発生することがわかる。 2-3 周波数ずれによる障害 他励共振型回路では二次側回路における共振周波数の管理が重要となる。 液晶バックライトの寄生容量などの管理が悪いと共振周波数が設計値と異なり、インバータの効率を低下させたり発熱や冷陰極管の寿命を悪化させたりするおそれがあるため、共振周波数の管理は重要である。 周波数ずれにより起きる障害の例として、液晶バックライトがピンク色になり、冷陰極管が損耗するという現象がある。 これは主に、他励型駆動回路の出力段構成がスイッチスナバ型の駆動回路であり、かつ、他励型の発振周波数と二次側の共振周波数がずれた場合に起きるものである。 (図9の回路は俗に「ハーフブリッジ」と呼ばれているようであるが、この回路は真のハーフブリッジ型回路ではなく、正確にはスイッチスナバ型回路という。) スイッチスナバ型回路は輝度調整を行なう際、トランス一次巻線の電圧波形のデューティー比を図9のように変えることによってトランス一次側から与えられる電力を制御する。
しかし、図9の波形は偶数次高調波を多く含み、これらの高調波がトランス二次側に漏れると冷陰極管管電圧が上下非対称になる。 その電圧が非線形素子である冷陰極管に与えられると冷陰極管の整流作用により直流電流が流れ、このために冷陰極管の水銀が偏りを起こしてピンク色の異常放電を起こすことになるのである。 この異常放電は液晶バックライトの色がピンク色になるばかりでなく、冷陰極管の寿命を極端に悪化させる。 このような異常放電を防ぐためにはスイッチスナバ型のドライブ回路をやめてフルブリッジ型のドライブ回路を採用するか、漏れインダクタンスLsを小さくし、相対的にCを大きくして、すなわちQの高い二次側共振を起こさせて偶数次高調波を抑えることが重要である。 また、スイッチスナバ型のドライブ回路において、二次側回路に直列に挿入される高圧コンデンサは直流をカットするための重要な働きをしており省略することは禁物である。 3 まとめ 他励共振型或いはゼロ電流スイッチング型の新回路方式インバータ回路においては、共振周波数は非常に重要であるところから液晶バックライトの寄生容量の管理は重要である。 ところが、現状では液晶の安定供給を考えて一つのモデルに複数のメーカーの液晶パネルを採用することが普通となっている。 しかし、それぞれの液晶バックライトは特性が異なるのであるから、これらを一種類のインバータ回路で対応しようとするときは共振周波数の管理には特に注意しなければならない。 対策として、二次側共振のQを低くしてブロードな共振にすれば対応性を増すことができるが、これは効率を多少犠牲にすることにつながる。
新しい試みとして既に一部のノートPCメーカーがこのような液晶の調達方法を始めている。 (写真1はDell社の例) このような方法は効率面、液晶バックライトの管理面で理想的な方法ということができる。 |