冷陰極管と熱陰極管
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1.冷陰極管について

冷陰極管も熱陰極管も基本的には蛍光管であって、発光原理は一般の蛍光管と同じです。

電極から電子が飛び出し、電子が水銀(キセノンも使われる)に当たって水銀を励起し、水銀が紫外線を放出し、紫外線がガラス管の内側に塗布された蛍光体にあたって可視光になる。
詳しくは、ウシオ電機のホームページ

http://www.ushio.co.jp/products/tech/le/le2/2-14.htm


冷陰極管と熱陰極管との大きな違いは電極の部分にあります。
冷陰極管は電極の構造が簡単なため、非常に細い形状の蛍光管が可能です。
電極の電子放出が熱電子放出ではないので、冷陰極管(Cold Cathode Fluorescent Lamp-CCFL)と呼ばれます。
一方、一般的な蛍光管は電極にフィラメントがあり、これを熱して熱電子放出を起こさせるので熱陰極管(Hot Cathode Fluorescent Lamp-HCFL)と呼ばれています。


2.冷陰極管と熱陰極管の応用分野

熱陰極管は電極の構造が小さくできないので細型の蛍光管には適しません。
したがって熱陰極管の場合には主にハイパワーの蛍光管に応用されています。
一般照明用の蛍光管はほとんどがこれです。
一方、冷陰極管はその細型の特性が生かされるような、液晶用の背面照明(バックライト)に多く利用されています。

ハリソン東芝ライティングのホームページ
(http://www.islands.ne.jp/harison/pro/back/index.html)

また、丸く加工された冷陰極管は、最近は良く自動車などのアクセサリーとしても皆さんの目にとまるようになって来ました。通称、「イカリング」と言われていますが、ヘッドライトのまわりが丸く光っていたらそれが冷陰極管です。
また、冷陰極管は熱陰極管に比べて寿命が長い点を生かして、LEDに代わる省エネ長寿命照明としても用途が広がりつつあります。


3.冷陰極管の熱

よく誤解されることですが、冷陰極管は陰極が冷だから陰極からの発熱は少ないんじゃないのか、と言われます。
それは大きな間違いで、冷陰極管の陰極の発熱は同じパワーの熱陰極管より大きくなっています。
冷陰極管と熱陰極管の内部の電圧勾配を示したものが図1です。
ここで、陰極降下電圧と陽光柱の電圧降下に注目して下さい。
冷陰極管も熱陰極管も実際にエネルギーが消費されてそれが光に変わる部分は陽光柱の部分です。
陰極降下電圧の部分は発光に寄与していませんので全てのエネルギーが無駄になって熱に変わってしまっています。
この陰極降下電圧は、熱陰極管の方が小さく、冷陰極管では大きくなっています。
つまり、冷陰極管は熱陰極管に比べて効率は悪いわけです。
冷陰極管は無駄なエネルギーが陰極付近で消費され、その結果、「」陰極管なのに電極が熱いのです。
ですから、冷陰極管を使って機器を設計する場合、陰極付近の放熱が良くなるような注意が必要です。


4.冷陰極管の製造メーカー

代表的なところを挙げると次のようなところです。

スタンレー電気
ハリソン東芝ライティング
NECライティング
ウエスト電気
サンケン電気
エレバム
錦湖電機(韓国)

5.冷陰極管の電気特性

5-1.基本的特性


冷陰極管は熱陰極管に比べて陰極降下電圧が大きいため、効率が悪くなります。そこで、効率を改善するために陽光柱の抵抗値を大きくすることによって、実際のエネルギーの多くが陽光柱で消費されるように工夫されています。これは、ガス圧を高くすることによって実現されます。熱陰極管の内部のガス圧は数百Pa(パスカル)なので低電圧大電流で点灯させますが、冷陰極管のガス圧は数千Pa以上になっており、その結果、冷陰極管では管電流が小さくインピーダンスが高くなっています。

図2 CCFLの管電流-管抵抗特性
冷陰極管のインピーダンスはノートPC用に使われているものであれば、一般に50KΩ〜200KΩ程度です。(図2)
これに比べて熱陰極管の方は一般照明用で200Ω〜1KΩ程度です。
冷陰極管のインピーダンス特性は、管電流が大きくなるほど抵抗値が急激に低くなっていく負性抵抗特性を持っています。
放電電圧はノートPC用の冷陰極管で一般に700Vぐらいです。
熱陰極管の場合は70V〜140Vぐらいです。


冷陰極管は管電圧が高く、管抵抗(インピーダンス)が高いことから、寄生容量の影響を強く受けます。次にその様子を見てみましょう。



図3 裸管状態における冷陰極管の電流−電圧特性

図3は冷陰極管を液晶バックライトに組み込まない状態で測定した場合の電流−電圧特性です。一般に、冷陰極管のインピーダンス(管電圧/管電流)は管電流の-5/4乗に比例することが知られています。また、微小電流領域における管電圧を、Kick-off電圧、あるいは放電開始電圧などと呼んでいます。放電開始電圧という意味は、冷陰極管を一旦そのような高電圧の状態に置かないと放電を開始しないという意味ですが、冷陰極管においては大きな疑問が残ります。
それというのも、冷陰極管をバックライトに組み込んだ場合には、この特性が大きく変化するからです。図4の桃色の特性は、バックライトに組み込んだ状態で冷陰極管の電流−電圧特性を測定したものです。


図4 液晶バックライト組み込み時における冷陰極管の電流−電圧特性
(青;裸管状態 赤;近接導体がある状態)

比較のために、裸管状態の冷陰極管の電流−電圧特性と比較してみましたが、裸管状態と比較して、バックライトに組み込んだ状態ではKick-off電圧(放電開始電圧)というものがなくなっているのです。これは、液晶バックライトで一般的に用いられる反射板が金属であるために、近接導体としての効果が働いているからです。
このことが、液晶バックライト用インバータ回路の設計の際に変な問題を引き起こしています。実際の液晶バックライト用インバータ回路を設計する場合には、冷陰極管の仕様書に載っている放電開始電圧という数値は上記のグラフからもわかるように、意味がありません。ですから、本来ならばこの数値に拘束されてインバータ回路を設計する必要などは全くありません。そんなインバータ回路を設計していたら値段がとてつもなく高くなってしまうのではないでしょうか。実際に必要なのはバックライト組み込み状態における、管電圧−管電流特性です。この「放電開始電圧」とかいう幽霊仕様は仕様書から排除してもらいたいものです。グチになりますが、不勉強なバックライトメーカーが冷陰極管仕様書からそのまま転載してくるのでウザイったらありゃしないのです。


液晶バックライトにはKick-off電圧なんて存在しません!

ここで、液晶バックライト組み込み時の冷陰極管の管電流−管電圧特性をもっと詳しく見てみると次のようになります。(図5)

図5 管電流-管電圧特性と領域ごとの性質

温度計効果領域
温度計効果とは、冷陰極管の高圧側の一部だけが点灯している状態であって、目で見ると、冷陰極管の光っている部分が電圧にしたがって温度計のように変化するのでそう言われている。この領域は、光アクセサリーの一部で利用される他は実用性がないので使われない。
長時間この状態を続けていると冷陰極管の水銀が偏って異常放電を起こし始めるので液晶バックライトでは使用禁止。細い冷陰極管は水銀の偏りに弱い。
定電圧特性領域
管電流が変わっても放電電圧がほぼ一定の領域なのでそう呼ばれる。バックライトの構造の中で、特に冷陰極管と反射板(近接導体)との距離によって大きく特性が変わる領域である。
-5/4乗特性領域
管電流に対して冷陰極管インピーダンスが-5/4乗で変化する。この特性はとても有名である。

ちなみに-5/4乗特性領域を対数グラフにプロットしてみると次のようなグラフになります。



図6 冷陰極管の-5/4乗特性

液晶バックライトでは、これらの領域のうち、定電流特性領域の後半から-5/4乗特性領域の前半までを実用域として使います。この領域は冷陰極管の管電流が増えるほど管電圧が下がっていく特性ですので、負性抵抗特性領域と呼ばれています。

6.冷陰極管の特性と外部要因


冷陰極管はこのように負性抵抗特性を持っているのでので、点灯させるためには漏れ磁束変圧器(リーケージトランス)や共振変圧器を用いた点灯回路(インバータ回路)が必要になります。
また、冷陰極管の特性は近接導体や寄生容量などの外部要因に影響されやすい性質があるので、インバータ回路の設計には注意が必要です。
よくある失敗として、冷陰極管を裸管状態でインバータ回路とマッチングさせ、その後に器具に組み込んで特性が変化したためにインバータ回路が発熱して焼損したなどの事例があります。
冷陰極管用インバータ回路は外部要因の変化を考慮に入れながら設計しなくてはならないものですので、この点をよく注意してください。
現在の大半のインバータ回路は2000年ごろから採用が多くなり始めた他励共振型という技術に基づいています。これは、寄生容量と漏れ磁束変圧器の漏れインダクタンスととを共振させる共振変圧器を用いたインバータ回路です。
冷陰極管周辺には寄生容量という、仕様書には記載されていない容量成分が発生していますが、他励共振型の場合、インバータ回路にはこの寄生容量を考慮に入れた設計が必要になります。
寄生容量は冷陰極管の長さや状態に関係なくほぼ8pFから10pF程度の値になりますが、このほかに冷陰極管の温度やその他の状態の変化によって冷陰極管のインピーダンスは大きく変化します。
このインピーダンスの変化は冷陰極管の仕様書には記載されていません。
他励共振型のインバータ回路を使用する場合は外部要因の変化に弱いということを十分に理解しておく必要があります。

そこで外部要因に影響を受けにくいインバータ回路方式の採用が考えられますが、二次側回路に共振回路を有する共振変圧器の駆動には電流共振型の回路が最適であり、電流共振型の駆動方式を採用することによって高効率で安定したインバータ回路が実現できます。今後開発されるインバータ回路は電流共振型が主流になるでしょう。

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