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液晶バックライト用ペンシルインバータ 調相結合型トランスの発明で、世界最小のインバータ回路を実現
インバータ回路は液晶バックライトパネルの光源である冷陰極管(Cold Cathode Fluorescent Lamp)を駆動するための昇圧回路であり、重要部分の一つである。 従来この部分には一般的な閉磁路型の非漏洩磁束型昇圧トランスが使われ、周辺回路もメーカーごとの違いが全く無いといって良いほど同じ回路構成になっていた。 一方、液晶バックライトは年々小型軽量化され、それにしたがいインバータ回路にも小型化が求められるようになった。 しかし、インバータ回路は非常に基本的な構成であるため、通常考えられる設計法ではこれ以上の大幅な小型化は不可能であると考えられていた。 インバータ回路の小型化を阻む一番の原因はトランスであり、トランスの小型化が難しかったからである。 ところが、調相結合型トランスの開発によりブレークスルーが可能となった。 新型のインバータ回路はその形状からペンシルインバータと名付けられた。 ここでは、インバータ回路の大幅な小型化だけでなく、効率、安全性、ローノイズ、ローコスト化を実現した調相結合型トランスとそれを用いたペンシルインバータについて紹介する。 |
従来型のインバータ回路の回路構成と問題点 1.回路構成
図1に回路図と各部の信号波形を示す。 負荷として接続される冷陰極管は放電管であり、放電管の一般的な特性として陰極降下電圧が負性抵抗特性を持つので、放電電流の安定化のためにバラストコンデンサを必要とする。 冷陰極管と直列に接続されたCbはそのためのものである。 負性抵抗特性により冷陰極管に流れる管電流は歪んで三角波状になっている。 2. 冷陰極管周辺に発生する寄生容量と小型化の障害 一般に発振周波数を高くすればトランスは小型化できるのであるが、冷陰極管を負荷とする場合には、冷陰極管の周辺に発生する寄生容量を考慮しなければならない。 寄生容量は二次巻線にも発生し、これらを合わせた等価回路は図3のようになる。 近年では液晶パネルの薄型化に伴い、トランスの形状には小型のものが求められるようになって来た。 しかし、トランスの漏れインダクタンスというものはトランスの形状が十分に大きいものであれば相当に小さい値とすることが可能なのであるが、市場の要求に合わせてトランスの形状を小さくしていくとどうしても漏れインダクタンスの値は大きくなる傾向になる。 そのため昇圧トランスが小型化されると二次巻線の漏れインダクタンスとこれらの寄生容量によって決まる共振周波数が低くなり、冷陰極管用インバータ回路の設計上無視できない値となってしまう。 従来の設計法では、インバータ回路の発振周波数はこの二次側回路の共振周波数よりも十分に低いところ(おおよそ1/5倍ないし1/9倍)に設定しなければならないものとされていたところから、発振周波数を高くするのにも限界があり、これらのことからトランスの小型化の障害となっていた。 ペンシルインバータにおいては、従来障害とされていた寄生容量と漏れインダクタンスを巧みに利用することによってトランスの小型化を実現した。
ペンシルインバータの原理 1. ペンシルインバータの構造 図4,5にペンシルインバータの回路図と形状を示す。ペンシルインバータの一次側回路は従来型のインバータ回路と基本的に変わりはない。(他励型ドライブ回路の方が性能は良好である→)
図6に従来型の昇圧トランスとの比較を示す。 調相結合型トランスは構造が簡単で全自動化による組立てが可能である。 また、このトランスの性質上層間絶縁テープも含浸も必要としないため、従来型のトランスに比べて製造コストは非常に安い。 2. 調相結合型トランスの動作原理 二次巻線の分布定数性による調相現象は細長く変形された形状のトランスを自己共振周波数以上の高い周波数で励振すると表れる現象で、冷陰極管用インバータ回路のトランスにおいては、二次巻線が多く、その結果、自己インダクタンス、寄生容量とも大きい場合に生じやすい。 閉磁路型トランスにおいては、トランスの二次巻線に生じる寄生容量と巻線の自己インダクタンスによって生じる自己共振点は一つしか存在しない。 これは、従来の閉磁路型のトランスにおいては実効的な透磁率が高く、巻数が少なくて済むところから、二次巻き線上に発生する進行波の速度は著しく高くそのため二次巻線全体が一個のインダクタとして挙動するからである。 ところが、ここでコアを棒状にして実効的な透磁率を低くし、多数の巻線を施すと、二次巻線は分布定数状の性質を帯びるようになり、二次巻線内を流れる電流に時間的な遅れを生じるようになって磁束が素直に通り抜けられなくなる。その結果、磁束はコアの途中から漏洩しようとする。 つまり、二次巻線に巻き線間寄生容量が存在し、巻き線間寄生容量とインダクタンスとの働きによって遅延回路が形成されるので、磁束は一次巻線近傍の二次巻線に到達した後は先に進めないことになり、途中で漏れざるを得なくなるのである。 さらに励磁周波数を高くしていくと二次巻線が複数に分割されて挙動する現象が生じる。 これは、複数に分割されたインダクタとそのインダクタに含まれる寄生容量との間で小さな共振子を形成するからで、波の伝搬速度にしたがって共振子が二次巻線上を移動するという現象も生じる。 これらの現象は見かけ上インダクタが遊離してしまったように見えるため、遊離インダクタ効果と名付けた。(図7)
この二次巻線を同軸ケーブルとみなすと、寄生容量が大きくインダクタンスも大きいので波の伝搬速度は遅く、特性インピーダンスは非常に大きいことになる。(図9)
3. ペンシルインバータの等価回路
πマッチ回路はアンテナのインピーダンス整合回路として一般的によく使われている回路である。(図13a) ここで、負荷である冷陰極管をアンテナとみなし、インピーダンスを実測すると約75kΩ〜100kΩになるので、これをもとに遊離インダクタ効果型トランス(調相結合型トランス)の二次巻線のパラメータを調整しインピーダンス整合を行うと、冷陰極管に安定した給電が行われ、インバータ回路の効率が向上する。(図13b)
ここで、従来型のインバータ回路で使われるバラストコンデンサのリアクタンスによる強制ドロップ回路を振り返ってみると、これはインピーダンスのミスマッチの給電と見なすことができ、その結果負荷からは反射波が生じ、これがトランスを通して一次側に帰還し、コレクタ巻線の銅損となってインバータ回路の効率を悪化させていたことがわかる。
また、従来、液晶バックライトとインバータ回路を別々に設計し、高耐圧シリコン被服の給電線を長く引き回すような設計が多く見られたが、引き回しにより輝度が不安定になることがあり、これを「リーク」とか「漏れ電流」と呼んで悩んでいた。 この場合、シリコン被服線の耐圧を上げることばかりに気を取られて対策しようとしていたがうまくいかなかった。 しかし、これをインピーダンスのミスマッチであると気づけばそのような現象も容易に理解でき、正しい対策ができるわけである。 このように視点を変えてみると、インバータ回路の設計は最近では高周波の理論を必要とする領域まで突入していて、より効率の良いバックライトを開発するためには高周波の概念を取り入れた総合設計が不可欠となってきているといえる。 ペンシルインバータの特徴 1. 小型、高効率
その結果、導光板のフレームに収めることもできるようになり、これを用いたバックライトユニットは写真1に示すようにシンプルなものになる。 これは、直流を与えるだけで簡単に発光するという、バックライト本来の理想に近いものである。 このようにすると、高周波設計までを一体として管理できるので、このバックライトユニットの電力辺りの輝度効率は非常に高い。 2. 安全性 冷陰極管用インバータ回路のように、高圧で電力を扱うトランスにとって最も恐れられていることはレイヤショートである。レイヤショートは巻線の被服の一部に絶縁不良があると、そこから始まった放電により更に絶縁不良が拡大し、巻線全体にレイヤショートが一気に拡大する現象である。 閉塞磁束型トランスでは、一次巻線から生じた磁束はすべて二次巻線を通過するので、一部でレイヤショートが発生するとレイヤショート発生部位にすべてのエネルギーが集中する。 これに比べ、調相結合型トランスではレイヤショートの発生があると、磁束は絶縁不良の部位を通過せず、手前で漏洩しようとするので、レイヤショートは拡大しない。 図14a,bはインバータ回路トランスの二次巻線に硝酸を一滴垂らし、消費電流の変化を比較した霊であるが、閉塞磁束型トランスではレイヤショートの実験開始とともに消費電流が増大しているのに対し、調相結合型トランスではむしろ消費電流が低下してフェールセーフ効果を生じていることがわかる。 実際の場合でも、レイヤショートを起こしたトランスを放置すると閉塞磁束型ではレイヤショートは次第に拡大し、ついには破壊にいたるが、調相結合型トランスではこのまま長時間放置することも可能である。(バラストコンデンサによる弊害→) 4. ローノイズ 調相結合型トランスでは磁束が漏洩するためノイズが多いと考えられがちだが、実際に輻射ノイズを測定すると図15a,bのようになり、むしろ予想とは逆の傾向を示している。
注目すべきは、600KHz〜1MHzに観測されるラジオ放送波がEMIノイズに隠れている。 ラジオ波が妨害を受けているわけである。 これは主にバラストコンデンサによる影響が大きい。 つまりは、バラストコンデンサが管電流波形を歪ませ、輻射ノイズを発生させているのである。 バラストコデンサを使った従来のインバータ回路は、EMI対策から見るととても有害である、ということである。 一方、調相結合型トランスでは高調波ノイズ低減率は-40dB/decである。 600KHz〜1MHzにのラジオ放送波がはっきりと観測される。 つまり、高調波がラジオ放送波を妨害していないのである。 これがバラストコンデンサを取り去り、トランスを漏洩磁束型としたことの効果である。 一見不思議なことに思えるが、従来のバラストコンデンサを有するコレクタ共振型インバータ回路のコレクタ電流波形を見てみると、急峻な電流の変化をしていることがわかる。 また、閉塞磁束型トランスのように巻線間の結合度が高いと、一次巻線側で発生する急峻な磁束の変化のすべてが二次巻線側に伝わってしまう。 一方、調相結合トランスは基本的に漏洩磁束型であるから漏れインダクタンスが大きい。そのためdi/dtの大きい成分は二次巻線の途中から逃げ出し、二次巻線に伝わりにくい特性を持つ。これらのことから、高調波の輻射ノイズを減らすためには、巻線間の結合係数を上げることはむしろ有害であることがわかる。 (実際には漏れインダクタンスを大きくする手法が開発されたことで、結合係数を高くしても、問題がないことがわかった。) つまりは漏洩磁束性のある調相結合トランスの方が、漏洩磁束性のない閉磁路型トランスよりもノイズが少ないということである。 一見して矛盾しているように思われるが、輻射ノイズの主役は漏洩磁束ではないということである。 このように、調相結合型トランスはトランスの常識を覆すいくつかの提言を含んでいる。 トランスは一見して原理が簡単なように見えるため、その挙動は既に知りつくされているものと思われがちである一方、誘導という現象について正しい理解がされていない場合が多い。 知りつくされたはずの二次巻き線上の調相現象のような未開拓の部分が存在しており、ここでもう一度、トランスの原理を再確認してみる必要があるのではないだろうか。 |
液晶バックライトとその周辺技術 液晶パネルを支える導光板の高効率化と高輝度化 現状、液晶ディスプレイにはバックライトが必要不可欠である。そしてその高効率化、高輝度化、低消費電力化、小型化などが、液晶ディスプレイの性能を大きく左右することになる。ここでは、その基本的構造と周辺技術の進展について解説する。 導光板(面光源パネル) 液晶のバックライトは現在では導光板方式が主流となっている。 従来この部分にはEL(エレクトロルミネッセンス)が用いられていたが、1986年、株式会社明拓システム(現在スタンレー電気系列)が発明したエッジライト方式の導光板の登場とともに、EL方式は導光板方式に取って代わられた。 導光板は世界に誇れる日本の独自技術であり、表舞台の液晶を支える縁の下の力持ち的存在といえる。 ここでは、従来あまり知られていなかった導光板技術について、その構造と、高効率化、高輝度化技術について紹介する。 1. 導光板方式を用いた面光源の原理と構造 (1) 導光板の原理
光源としては細径の特殊な蛍光管(冷陰極管)が用いられる。 反射ドットの作り方には印刷法やインジェクション法などいくつかあるが、ここでは印刷法について説明する。 反射ドットは、チタン白(TiO2)や沈降性硫酸バリウム(BaSO4)など光学的に吸収がなく反射率の高い顔料とアクリル系バインダーを練り合わせた反射インクをスクリーン印刷法によって塗布している。(図2)
つまり、光源である冷陰極管に近い部分は小さく、光源から遠くになるにしたがい大きくなるように配置することによって、面全体が均一に発光するようコントロールしているのである。 細かくみると、一灯用のパターンは冷陰極管から最も遠い部分の反射ドットが最も大きくなるのでなく、端面から2〜30%のところが最も大きくなっているが、これは、光の利用効率を上げるために端面に貼られる端面反射シートの影響によるものである。 この他、導光板は光の利用効率を上げるため、反射シートや拡散シートなどを用いて高輝度化を実現している。(写真1)
拡散シートは主に、導光板正面から見たときの反射ドットを拡散して見えなくする目的のものであったが、最近ではレンズ特性を持った集光性拡散シートなどが積極的に用いられ、正面輝度を上げる工夫がされている。 2. 導光板の種類 スクリーン印刷方式とインジェクション方式 導光板(主にアクリル板)の加工法には反射ドットをスクリーン印刷により塗布する方法と、アクリルの射出成形の際に、型に加工した反射ドットにより、アクリル本体と反射ドットを一体成形にする方法があるが、それぞれに一長一短があり、目的によって住み分けがされている。(図5)
インジェクション方式はコストが安く小型及び大量生産に向いているが、小回りが利かず、初期投資が大きいので主に5インチクラス以下の液晶テレビなどに用いられることが多い。
この他の方式として、粘着ドット法(図8)などがあるが、これは大型看板用などに適した方式であり、液晶バックライト用としての例は少ない。
高輝度化のためのアプローチ アクリルの端面から光を導入した板面全体に拡散するという技術は、一見したところ無理があって効率が悪そうにみえるが、実際の導光板では極めて光の利用効率は高い。 導光板は光の屈折界面における全反射や屈折を巧妙に利用しており、細部にわたって光学的に裏付けされた高度な技術の集合体である。 1. 光学的全反射と屈折の応用 導光板内を進む光は多くの反射と屈折を繰り返すが、その際、反射面においてエネルギーロスを伴うと、導光板の光効率は極端に低くなる。 一般に反射面というと、金属面反射を思い浮かべるが、金属面における反射は決して効率の良いものではない。 最も優秀な金属面反射でも通常10%〜15%程度のロスをともなうので、3回も反射を繰り返すと光のエネルギーは半分以下になってしまう。 一方、屈折率界面における全反射はエネルギーロスのない完璧な反射であり、反射率は100%である。 反射を何十回繰り返してもエネルギーロスはゼロであり、導光板においてこの事は重要な要素となっている。 したがって、導光板では至る所に屈折率界面における全反射が応用されている。 (1) アクリル平滑面における全反射 アルリル端面から入光した光は、平滑面で全反射を繰り返しながら、アクリル板の内部を進んでいく。 アクリルの屈折率は約1.49であり、これから計算して選られる全反射角(臨界角)は42.2°となる。 このことは、アクリル板の端面では接線すれすれの光を含むすべての角度の光がアクリル板内に入光し、一旦入光した光はすべてが全反射光となってアクリル板内を進んでいくことを示している。(表面反射7%を除く)(図9)
このような理由から、導光板における光の利用効率が非常に高いことが説明できる。 (2) 反射ドットの全反射
(3) 反射シートの全反射 導光板裏面に抜けた光を正面に反射する反射シートは、見た目は真っ白なつや紙のように見えるが、これはPETやポリカーボネートなど、光学的に透明度の高い樹脂を微細発泡させて作られている。
反射シートとして代表的なものは東レのE-60などがある。 泡は屈折率約1.00の素材であり、透明樹脂との間で良好な屈折率界面を形成する。 導光板においては空気も構成部品の一部なのである。(図11) (4) 拡散シート 拡散シートは反射ドットを目立たなくする目的だけでなく、光を正面に集めて正面輝度を高くするという重要な働きを持つ。 液晶には視野角があり、正面からかずれた方向から眺めてもよく見えない。 したがって、バックライトも液晶にあわせて視野角から外れた方向に出る光を集光し、正面に向かわせることによって光を有効に利用する。
冷陰極管(Cold Cathode Fluorescent Lamp)とその特性 導光板の光源として用いられる冷陰極管は、直径数ミリ程度の非常に細径の蛍光管であり、導光板の発展とともに近年急速に発展した。 導光板が薄くなるにしたがい冷陰極管も細くなり、最近では直径2.6ミリのものが主流となってきている。(写真2)(1999年においては直径1.8ミリのものが主流になって来ている。) 冷陰極管の発光原理は普通の蛍光管(熱陰極管)と基本的に変わりはないが、電極にフィラメントがないので構造が簡単で電極を小さくできることから、細径化に適している。 電極を加熱しない(Cold cathode)ため、熱電子放出ではないので、電気的特性は、陰極降下電圧が高く、また、陽光柱(発光部)が細くガス圧が高いので、放電電圧は熱陰極管に比べて非常に高く(300〜700V)なる。 また、放電電流は5〜7mA程度が普通となっている。
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