近年の液晶バックライトに対する要求は薄型化と大型化、高効率化に集約される。 液晶バックライトが薄型化されるとともに、インバータには薄型化が求められている。 また、液晶バックライトの大型化とともに、よりハイパワーなインバータが求められるようになっている。 これらの要求を満足させるためにはインバータの高周波設計、特にその構成部品であるトランスの設計法に根本的な見直しが必要になってきている。 高周波設計においてはLとCの合理的な取り扱いが重要であり、従来のだん長な設計法では限界が見える。 そこで、新設計法に支配的な、トランスのインダクタンス成分と冷陰極管(CCFL)の寄生容量の影響を分析し、それに適したインバータの最適化設計法について検討する。 1.導電性反射シートによる輝度低下 (1) 寄生容量とは インバータの動作周波数はオーディーオ領域とラジオ周波数領域の中間であり、その設計法には高周波設計のノウハウの導入が不可欠となっている。 点灯灯状態の蛍光管の内部(陽光柱プラズマ)は導体であり、この導体と外部の導体の間で回路図にないコンデンサを形成する。これが寄生容量である。
寄生容量は、インバータからCCFLまでの配線、インバータのトランスの二次巻線などにも生じる。 通常、この寄生容量の合計は6pF〜15pF程度の値となる。 また、あまり寄生容量が大きいと、調光回路が働かなくなることもある。 (2) 寄生容量の等価回路 図2は、一般的なインバータ回路(コレクタ共振型−コンデンサバラスト型)の二次側に発生する寄生容量を記載したものである。 この図の中で、CCFL周辺に発生した寄生容量は、バラストコンデンサCbとの間で容量分圧効果を生じてCCFLにかかる電圧を低下させ、 輝度の低下を起こす。
このような、寄生容量による輝度低下現象は、従来設計法の巻線トランス式ばかりでなく圧電素子を用いたインバータにおいても起こる。 一般に、巻線型よりも圧電型の方が寄生容量に弱いとされている。 |
(3) 従来設計法の問題点
これに対応するために、CCFLの仕様書に記載される空中で測定した放電開始電圧をそのままインバータの開放出力電圧の仕様にしてしまうと、昇圧トランスの二次巻き線に過度な負担がかかることになる。 最近の17インチパネル用CCFLでは2KVもの空中放電開始電圧を示すものもあり、このままの仕様で昇圧トランスを提供するのは、技術的に可能であっても管理上非常に危険である。 また、最近では二次巻線の高圧部より発生するオゾンによる影響も懸念されている。 近接導体効果までを考慮した、現実的な開放出力電圧を基準にインバータを設計する必要がある。 (4) 実際の放電開始電圧
実際の液晶バックライトにおける点灯開始電圧と空中における放電開始電圧では測定条件が大幅に異なるといえる。 実際の液晶バックライトではCCFLの周辺に寄生容量が存在し、その寄生容量によって近接導体効果が生じて点灯開始電圧は低くなる。 特に、銀シートなどの導電性反射シートがあると、電極と反射シートの間で無電極放電が始まり、それが両極から伸びて来るので意外に点灯開始電圧は低くても良い。
したがって、耐圧基準などはこのIV特性のピークを測定し、そこからマージンを考えることが合理的である。 一方、実際にキック電圧(開放出力電圧)を必要とする液晶バックライトも一部に存在する。 その例を図4-2bに示す。 バックライトのIV特性がどのような特性を示すかはバックライトの構造による。 つまりは冷陰極管反射シートの反射板を接地していない場合にこのような特性が得られる。 図4-2bに示すバックライトは寄生容量が少なく輝度の偏りが少ないという特徴がある一方で低温起動性が悪いという問題があり、どちらの構造にするべきかはそれぞれ一長一短があると言える。 冷陰極管の起動性に関しては、導電性反射シートは近接導体として役立っている。 この効果は周波数が高いほど良好に働く。 現在のインバータの発振周波数である50〜60KHzでも効果はあるが、さらに80KHzを超えると低温起動や発光効率改善にも効果がある。 この効果は周波数を高くするほど有効であるが、一方で輝度が冷陰極管の高圧端子側に偏るという現象(片点灯)を生じるので周波数を高くするには限界がある。 この周波数限界は液晶バックライトに発生する寄生容量Csのリアクタンスと冷陰極管のインピーダンスZrが等しくなる周波数とされる。 したがって、冷陰極管の管電流が多い場合は冷陰極管のインピーダンスが低くなるので液晶バックライトの駆動周波数は高くすることが可能ということになる。 A蛍光管の太さと近接導体効果、全光束 バックライトの薄型化によってCCFLの直径はますます細いものが要求されるようになった。 一方でバックライトの大型化への要求も高まっている。 大型のバックライトは長いCCFLで十分な光量を確保するために、現在は厚い導光板に管径の細いCCFLを複数本用いて光量を確保することが主流であるが、導光板が厚いため、太いCCFLを用いて一本で光量を確保しようという試みもある。 細いCCFLを複数用いる場合と太いCCFLを一本用いる場合では、どちらがバックライトの高輝度化に有利なのかを検討する。 以下、余談になるが、 一般に管径が細いほど管輝度は高いといわれ、細いCCFLほど効率が高いと思われがちである。これは本当にそうなのであろうか。 管径が細いほど蛍光管表面積は小さくなり、したがって、単位面積から放出される光量は多くなる。 その結果、管径が細いほど管の表面輝度(cd/u)は高くなる。 しかし、蛍光管表面積は小さくなっているのであるから、蛍光管から放出される全光束(ルーメン)値は小さくなる。 問題は、導光板の表面輝度を支配するのはCCFLの輝度なのか全光束なのかということである。 仮に、全光束が支配的であると意識されているのであれば、CCFLの仕様書には全光束が記載されているはずである。 しかし、実際には管輝度が記載されており、全光束が記載されている例はほとんどない。 このような状況から、導光板表面輝度を支配するのはCCFLの管輝度であるという誤解が相当広まっているものと懸念される。 実際に支配的なのは全光束であることは明らかである。 また、CCFLのプラズマの電流密度を一定とすると、全光束は断面積に比例する。 このように考えてくると、現在CCFLを2本3本用いて光量を確保するより、管径が太く断面積の広いCCFLに大電流を流して光量を確保した方がプラズマの電流密度が低く、管面温度も制御しやすいために効率も良い。 また、部品コストも安い。 今迄なぜそのような部分に気付かなかったかを考えると、CCFLの仕様書に全光束が記載されていなかったことに大きな原因があると思われる。 結局、仕様書至上主義が行き過ぎ、仕様書にある記載事項や書式に疑問を呈すという勇気と実行力に欠けていたのだといえるであろう。 本題に戻るが、管径の細いCCFLはインピーダンスが高くなるので寄生容量の影響を強く受けるようになる一方、近接導体効果が起きにくいので、交流放電開始電圧は高くなるという扱いにくいCCFLになる。 一方、太いCCFLはインピーダンスが低いうえに、近接導体効果により放電開始電圧が低くなる効果も期待でき、その結果非常に扱いやすいCCFLになる。 このようなことから、大型パネルにおいては太いCCFLを用いる方がインバータの設計上も有利である上に、全光束が確保しやすい明るいバックライトが作りやすい。 (5)寄生容量の実測法 実際に寄生容量を測定するには、CCFLを導光板にセットし、点灯状態において電圧・電流を測定し、等価回路と置き換えて比較する方法が適当である。
(6)インピーダンス整合と無効電力 CCFL周辺に大きな寄生容量が存在することによって、昇圧トランスの出力電圧と管電流の位相にずれが生じる。
インピーダンスのミスマッチ接続の場合、力率が悪くなり、トランスより供給する電力がCCFLに吸収されず、反射されて帰ってくる成分がある。 これらの無効電力は、無線技術ではSWR(定在波比)として、また、強電では力率として表される。 インバータの仕様書に記載される「いわゆる効率η」というのは正確な効率測定法から見た場合、明らかな誤りを含んでいる。 一般に、「みかけの効率」は、測定された管電流のrms値と管電圧のrms値を掛け合わせたものを「みかけの出力電力」として、入力電力で割ったものであり、位相ずれ成分COSθ(力率)や波形の変形による無効電力が全く考慮されていないので、効率評価の値として無意味である。 また、CCFLの管電流も、GND側で測定する場合と高圧側で測定する場合では値が大きく異なり、また、GND側と高圧側の管電流の食い違いは周波数によっても大きく変化するため、これらの値を用いて測定した「みかけの効率」値は、ほとんど信用できない。 「みかけの効率」値もまた、早急に見直し、場合によっては仕様書から削除すべきであろう。 最も正確な効率測定法は、CCFLをセットした導光板から出てくる全光束値(lm)を入力電力で割った、ランプ効率(lm/W)、つまり、1Wあたり何ルーメンの光エネルギーが導光板表面から放出されているかを計ることである。(別添資料1参照) また、無効電力を減らすことにより、インバータの変換効率の向上と、CCFLの輝度向上、導光板に発生する寄生容量対策になる。 2.寄生容量の対処法について (1)寄生容量とインピーダンス整合
従来型インバータにおいて、インピーダンス整合による浮遊容量対策を行う場合は、バラストコンデンサを取り除き、インダクタを挿入することによって実現することができる。
この場合のインダクタはバラストとしてではなく、インピーダンス整合回路の一部として働いている。 二次巻線寄生容量、蛍光管寄生容量とも自然発生的に存在するものであり、従来設計上有害であるとされていたものを有効に利用している。 πマッチ型整合回路は無線技術としては一般的なものであったが、これをCCFLの駆動に応用する。 パラメータは大きく異なるが、基本的な設計方は同じである。 アンテナの場合、インピーダンスは75Ωであり、一方、CCFLは約50KΩ〜200KΩである。 (3)多灯点灯に応用する
(4)圧電型の寄生容量対策 圧電型は特に寄生容量に弱いという欠点がある。 圧電トランスの出力が基本的に容量性であるために、CCFL寄生容量と特性容量間で容量分圧効果(図2)を起こすからである。 また、見かけの効率が良いわりに実際の輝度が取れないことが良くある。
これは、基本的に力率が悪いからである。 このような場合にも、整合回路により解決することができる。
(5)調相結合トランスによる浮遊容量対策 調相結合トランスの特徴は、コアに巻かれた二次巻線が、二次巻線の持つ単位長さあたりの自己インダクタンスと、二次巻線に発生する寄生容量との間で分布定数回路を構成する。
このことにより、二次巻き線が同軸ケーブルと非常に良く似た分布定数回路となり、単位長さ(1m)あたりのインダクタンスをL、単位長さ(1m)あたりの寄生容量をCとすると の特性インピーダンスを持っている。 このインピーダンスとCCFLのインピーダンスを整合させることで、 ・力率の改善(結果として効率の改善) ・チョークコイルの省略 ・寄生容量という悪材料を逆に部品として利用する という複数の効果を同時に実現させている。 分布定数回路は遅延回路でもある。 このため、調相結合トランスでは、密結合部から疎結合部にかけて磁束の変化にの時間(位相) 後れが生じている。 この伝達速度は約3〜4Kmという非常に遅い速度である。 このため、高い周波数で駆動すると、二次巻線のうち、磁束の変化が一次巻線と同じなのは一次巻線に近いところだけとなる。 つまり、一次巻線に近い部分に一次巻線からの磁束の多くが貫入するので、この部分を密結合部という。 位相が遅れた部分はしだいにトランスとしてよりも伝送路として働くようになる。 このように、二次巻線が分布定数状になると、二次巻線のうちで一次巻線近傍部と一次巻線から離れた遠端部ではトランスとしての働きがちがってくる。 磁束の変化に遅延が起きるので、磁束は二次巻線の途中から逃げ出さなければならなくなる。 この二次巻線の途中から磁束が漏れ出す部分を疎結合部と言うことにした。
3.調相結合トランスの特徴 (1)小型・薄型である
(2)高効率 効率の測定は全光束計によって行ない、導光板表面から放出される光の全エネルギーを入力電力で割ったランプ効率(lm/W)を測定しているので最も精度の高い効率測定法である。 導光板に冷陰極管が取り付けられた状態で、実装時と同じ寄生容量が発生している状態にしたうえでインバータをセットした。 インバータは液晶パネルメーカーから与えられたものをそのまま用いて測定を行っている。 比較測定では、トランスと共振コンデンサのみを、調相結合トランスに交換した。 したがって、交換した部品以外はすべて共通であるので、以下の結果は純粋にトランスの変換効率だけを比較したことになる。
トランスの交換だけで、これだけの効率向上が得られることは驚愕に値する。 調相結合トランスでは、調光して絞り込んだ時の効果が著しく、20%以上もの効率改善が見られる。 最近の小型トランス一般に言えることであるが、変換する電力を増やしていくと効率が高くなる、と解釈することもできる。 トランスの二次巻線に遅延現象が生じることと深い関係があると思われる。
(3)ローノイズ
磁束が開放されているトランスにもかかわらず、ローノイズなのは意外と思われるかもしれないが、この結果は、磁束の漏洩は電波にはならないということを示している。 従来型インバータの高調波ノイズが多いのは、トランスの結合率が高いため、一次側回路に生じた高調波も二次側に伝えてしまうからである。 また、輻射ノイズはCCFLから輻射されるものの方が支配的である。 (4)寄生容量による輝度低下現象がない 写真に示す通り、寄生容量の悪影響を改善している。
(5)安全性 バラストコンデンサを用いないバラストコンレス方式なので、二次巻線の高圧ストレスによる経時変化がなく、出荷後レイヤショート(市場クレーム)がほとんど生じない。(バラストコンによる弊害→) 参考資料 トランスの電力変換について トランスの電力変換に対する主な誤解は、励磁電流と負荷で消費される電流をごっちゃに考えるところから始まるものと思われます。 トランスの電力変換を考える場合、コアの励磁に必要な電流と電力変換される電流は分けて考えなければなりません。 基本は、 1.励磁電流は電力変換に寄与しない 2.トランスが電力変換している最中に、励磁電流は変化しない であり、これは誤りのない事実なのでこれを前提としておさえます。 次に、トランスが電力変化する原理を考えます。 まず、仮に、トランスの二次巻線に負荷がつなげられていない状態を考えます。 負荷がなく、二次巻線に全く電流が流れない状態では、トランスの一次巻線はただのチョークコイルと同じです。 したがって、 となり、一次巻線には励磁電流だけしか流れません。 一次巻線はチョークコイル状態ですから励磁電流しか流れません。 それはインダクタンスがあるので、電流が流れるのをじゃましているからです。 では、トランスの二次巻線に負荷がつながれ、電力が消費されるとなぜ一次電流が増えるのでしょうか。 これが重要です。 すなわち、じゃまが減ったらどうなるのか? 電流が増えますね。 どうしてじゃまが減るのか理由を見てみると、 数式 2 つまり、二次側で電力が消費され、二次巻線に電流が流れると、一次巻線のインダクタンスを減らすように磁束が発生する。 その分電流が増えて磁束を増やし、もとの励磁電流で作られていた磁束Φ1に近づけようとするので、一次電流が増え、結果として電力変換になっているのです。 ここで、副産物として、 1.二次側で電力が消費されるとわずかに励磁−磁束Φ1が減る。 理想的には減らないことになるのですが、実際にはわずかに減る傾向になります。 つまり、大きな電力を変換すればするほど、コアの磁束密度は減って(ほとんど減らないけど)コアの負担が減るのです。 ここのところが、全く知られていなくて、小さなコアで大きな電力変換をしようとすると、コアが飽和するんでは? と考える人がいますが、これは全くの誤解です。 また、上記のような原理でトランスが電力変換するので、「磁束が漏れたら漏れた分効率が低下する」も全くの誤解です。 例えば、 「磁束が漏れたら漏れた分効率が低下する」と考える人は、変換する電力が増えれば増えるほど、励磁磁束Φ1は増えるという誤解を伴っているでしょうし、変換する電力が増えていくといつかはコアが飽和する、という誤解もまた伴っているはずです。 結局、考え方の重要ポイントは、 トランスの電力変換は、磁束を増やそうとして電力変換するのではなく、磁束を減らそうとして電力変換するのです。 つまり、次のように一次巻線側から考えようとすると間違った考え方に至りやすいということです。 例えば、 ・一次巻線に電流が流れ、それが磁束を作り出し、その磁束が二次巻線に影響を与えて二次巻線に電圧が発生し、二次側に電流が流れる… (この考え方だとどうしても、「漏れた磁束は?…」という疑問に陥りやすい) ところが、これを、二次巻線側から先に考え、 ・二次巻線で電力が消費されると、一次巻線のバランスが崩れようとするので、あわてて一次巻線から電力が供給される。 ・二次巻線から電力を引き抜くと、足りない分だけ一次巻線から供給される。 (この考え方だと、二次巻線に影響を与えている磁束だけを考えればいいので、漏れ磁束は関係なくなる) という具合に、考えの順番を入れ替えていただければわかりやすいのではないでしょうか。 |