第1 |
「第1 本件特許発明について」 |
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1 |
「1 特許請求の範囲の記載」は認める。 |
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2 |
「2 本件特許発明の要件について」 |
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(1) |
分説中、E3の「の間で構成する共振回路を特徴とする」という記載は不正確であって、誤りである。
特許請求の範囲の記載からも明らかなように、E3は、「の間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする」が正しい。 |
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(2) |
なお、被告は遊離インダクタ効果は、本件特許請求とは無縁である旨述べるが、「原告準備書面2」9頁、同10頁ないし12頁にて記載しているとおり、遊離インダクタ効果は本件特許請求の範囲における「該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合と該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有することにより生じる二次巻線上における磁束漏れに伴う諸現象であり、この諸現象については、本件特許明細書発明の詳細な説明欄にも明記されている(【0010】)。 |
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3 |
「3 要件Aについて」(被告準備書面(2)3頁) |
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(1) |
被告は、「要件Aにいう『連続した一本の棒状コア』とは、細長い棒状のコアを指す。」と主張するが、これは否認する。 |
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(2) |
「連続した一本の」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されているように、従来のEIコアやEEコアのように一次巻線と二次巻線とのコアの間が分かれていないという意味である(「原告準備書面2」頁)。
このように、間が分かれていない「連続した一本」のコアであることは、2つの意味を有する。 |
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@ |
1つは、製造上の利便性である。EI型やEE型と異なり、「連続した一本」のコアは、2つに分ける必要がないため、非常に製法が簡便である。工業製品である以上、この製法上のメリットは極めて大きい。
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A |
より大きな意義は、一次巻線と二次巻線との間を一つのコアでつなぐことにより生じる磁気特性の機能である。
これにより、二次巻線上の磁束の漏れが均等になり、より理想的に近い遊離インダクタ効果が得られる。遊離インダクタ効果については既述したとおりである。 |
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(3) |
「棒状コア」とは文字通り、棒状のコアである。 |
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(4) |
被告製品のうち、中心コアは、 |
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@ |
EIコアやEEコアのように間が分かれておらず連続した1本のコアである。 |
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A |
形状が棒状である。 |
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から、連続した一本の棒状コアであることは明らかである。なお、被告製品が本件特許請求の範囲内であることについては後述する。 |
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(5) |
なお、被告は、原告準備書面2の漏洩磁束の図(図3、図4、図7)について全く的外れな非難を行っているが、理解に苦しむ。
原告準備書面2の図3ないし図4は、標題の「漏洩磁束の概念」からも明らかなように、一般の磁束の漏洩の説明を行っているものであって、本件特許請求との関連での説明ではないし、そのようにも記載していない。これらは、あくまでも、電気磁気学の定義を整理して記載しただけであり(甲第8号証P173「鎖交」の定義、同P174図8.4、P203図9.17「相互磁束」、「漏れ磁束」の定義、甲第9号証P170ないしP173"トランスの漏れ磁束、主磁束の概念、甲第10号証P49図3.9及びP50「漏れ磁束」、「主磁束(相互磁束)」の定義、甲第13号証P90図8-4「鎖交磁束」の定義)、これらを非難するということは、すなわち、電気磁気学の定義を非難・否定することである。 |
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4 |
「4 要件Dについて」 |
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(1) |
「漏洩磁束型の昇圧トランス」が、極端な漏洩磁束型であることは認めるが、一次巻線と二次巻線との結合係数が0.5に満たないものと解されるという点は否認する。 |
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(2) |
結合係数kは磁束漏れの絶対量とは関係ない数値である。したがって、これを0.5に満たないものと解されるとした点は否認する。 |
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(3) |
なお、被告は、被告準備書面(2)において、誤った結合係数の理解、及び、測定の誤りに基づいた、誤った理論構成を繰り返しているため、その点を詳細に後述する。 |
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5 |
「5(1) 要件E1について」 |
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(1) |
被告は、本件特許明細書には「密結合部分」「疎結合部分」「疎結合部分より生じる誘導性出力」という文言の記載はなく、二次巻線のどの部分を指して、それぞれ「密結合部分」「疎結合部分」というのか全く明らかでない旨主張する。 |
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(2) |
上記については、既に原告準備書面2、7頁ないし10頁において説明済みである。 |
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(3) |
これを磁束の流れから見れば、原告準備書面2において説明しているように、主磁束の多くが二次巻線と鎖交している部分が密、二次巻線上から漏洩している部分が疎となる。 |
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(4) |
なお、本件特許異議申立においても異議申立人により特許法36条4項に反する旨主張されていたが、特許庁審判においても、これらの主張は排斥されている(甲21)。 |
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6 |
「5(2)要件E2について」 |
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被告の主張は概ね認める。 |
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7 |
「5(3)要件E3について」 |
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(1) |
本件特許発明のポイントは、 |
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@ |
共振によって放電管に高い放電電圧を供給することであり(本件特許明細書【0009】【0010】)、 |
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A |
その効果は、昇圧トランスを小型にすること(本件特許明細書【0020】)、力率が改善されること(同【0021】)、高圧対策(同【0022】)、高耐圧コンデンサーを省略することが可能であること(但し、条件を選ぶ)(同【0023】)、二次側巻線のレアショートに対しても安全な構造となり、インバータ回路の信頼性が向上すること(同【0024】)にある。 |
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(2) |
なお、直列共振回路については、後述する。 |
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(3) |
また、本件特許発明において寄生容量は必須の条件であるが、実用的には補助容量も重要である。この補助容量については、特許請求の範囲にも、「共振回路の一部としたこと」と明記してあるし、明細書の実施例にも補助容量使用例が明記されているとおりである。 |
第2 |
「第2 被告製品について」 |
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1 |
被告製品の回路について |
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被告製品の回路については、下記に記載する点を修正あるいは追加する以外は原告準備書面3のとおりであり、これに反する被告の主張は否認する。 |
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(1) |
被告製品の回路の説明3 |
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被告は、被告準備書面2添付「被告製品の回路の説明」3において、「C25、C26、C16、C9はデカップリングコンデンサであり、直流と交流を分離するためのものであり、バンドパスフィルター回路における下限の周波数を決定する。」と主張している。
これについては、「C25、C26、C16、C9の値を十分大きい値とするという条件下では、C25、C26、C16、C9はデカップリングコンデンサであり、直流と交流を分離するためのものであり、バンドパスフィルター回路における下限の周波数を決定する。但し、下限周波数はインバータの動作条件の周波数に比べて遥かに低い周波数に設定されるため、本件特許との関連においてはほとんど関係がない。また、そのように設定すると、バンドパスフィルターの下限周波数は直並列負荷共振の並列共振周波数成分が支配的になるので、C25、C26、C16、C9は本件特許との関係においてはあまり重要ではない部分になる。」に修正する。 |
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(2) |
被告製品の回路の説明6 |
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被告は、同6において、「C12は15pFの値を有するコンデンサであり、バンドパスフィルター回路における上限の周波数帯域を決定する。…」旨主張する。
これについては、「C12は15pFの値を有するコンデンサであり、冷陰極管周辺に発生する寄生容量Cs1及びトランス二次巻線に発生する分布容量Cw1とともに直並列負荷共振(バンドパスフィルター)回路における上限の周波数帯域つまりは直列共振周波数を決定する。…」ということに修正する。 |
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2 |
「1 要件Aについて」中、「連続した一本の棒状コア」について |
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第1において検討したとおり、被告の「連続した一本の棒状コア」の解釈は誤りである。
したがって、被告製品が要件Aを充足しないという主張は否認する。 |
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3 |
「1 要件Aについて」中、ロ字コアについて |
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(1) |
本件特許発明の本質は、本件特許請求に記載のような形状のトランスにより、その二次巻線上に密結合・疎結合が現れ、その結果、二次巻線上の疎結合部分より生じる誘導性出力と二次側回路に生じる寄生容量との間で構成する共振回路の一部としたことであり、ロ字コアはこの現象を消し去るほど強力な効果を有していない。
したがって、ロ字コアは単なる付加物に過ぎない。 |
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(2) |
なお、被告は乙第6号証の測定結果をもって、ロ字コアのある際の結合係数とロ字を取り外した際の結合係数が大きく異なるから、ロ字コアは単なる添加物ではない旨主張する。
しかし、被告のこの主張は、結合係数という本件特許とはおよそ無関係な数値が変化することを述べているに過ぎず、ロの字コアが本件特許の効果を滅失させることの証明にはなっていない。また、そもそも被告は結合係数に関する、誤った測定方法と誤った理論に基づいて主張をしており無意味な反論である。これについては、後述する。 |
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4 |
「2 要件C2について」 |
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(1) |
被告製品の昇圧トランスの二次巻線に、「密結合部分」と「疎結合部分」があることは、甲17号証にて立証済みである。 |
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(2) |
なお、密結合と疎結合については、前述のとおり、主磁束の多くが二次巻線に貫入する部位が密結合、二次巻き線上から漏洩する部分が疎結合であると説明済みである。 |
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(3) |
なお、この点についても、被告の主張に詳細に反論するため、後述する。 |
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5 |
「3 要件Dについて」 |
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既述のとおり、被告の主張する結合係数については、@測定周波数が恣意的であること、Aそもそも結合係数が漏洩磁束を議論するには無意味であることの2点から誤りである。 |
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6 |
「4(1) 要件E1について」 |
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被告製品の昇圧トランスの二次巻線に、「密結合部分」と「疎結合部分」があること、及び、「疎結合部分より生じる誘導性出力」については、甲17号証にて立証済みである。 |
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7 |
「4(2) 要件E2について」 |
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(1) |
被告製品の「二次側回路に生じる寄生容量」とは、甲17号証にて立証済みである。 |
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(2) |
なお、被告は、二次側回路に生じる寄生容量はわずかなものであり、かつ、変動しやすいので、被告製品は15pFという高い容量を有するコンデンサC12を備えることにより寄生容量の影響を極力排除しており、このコンデンサC12の存在からみても、被告製品において「二次側回路に生じる寄生容量」を利用していない旨主張する。
しかし、液晶バックライトの寄生容量は通常は8〜12pF程度、トランスの二次側分布容量は2〜3pFあり、更に、他に配線間寄生容量もあるため、これらは15pFに比べてわずかなものとは言えない。なお、被告製品同等品が組み込まれているDell社の14インチ液晶パネルの点灯状態における寄生容量を測定してみたところ、やはり8pFであった(甲22 寄生容量の測定)。
したがって、コンデンサC12があるからといって、これが「二次側回路に生じる寄生容量」を利用していない根拠には全くならない。 |
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8 |
「(3)要件E3について」 |
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(1) |
被告は、被告製品においては、電圧、電流を最大化する直列共振回路は存在しない旨主張する。 |
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(2) |
しかし、後述するように、被告自身もMPS社のICにおけるSPLRを議論しているのだからそのハイサイドは直列共振であり、被告製品にも直列共振回路は存在する。被告の主張は自ら提出した証拠により破綻している(乙第7号証 MPS資料図4a,b,c,d)と言えよう。 |
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(3) |
更に、被告の結合係数についての理解の誤りは、前述したとおりである。 |
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9 |
「5 甲第18号証にいう『共振』について」 |
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被告は、甲第18号証にいう「共振」が、バンドパス(帯域通過)フィルターを構成して、滑らかなサイン波形状の出力電圧により冷陰極蛍光ランプを駆動する動作を意味し、本件特許発明のように直列共振回路を構成して、共振周波数で作動して、放電管に高い放電電圧を供給するものではない旨主張する。
しかし、この主張は詭弁である。バンドパスフィルターであることは否定しないが同時にバンドパスフィルターのハイサイドは直列共振回路である。したがって、バンドパスフィルターだからといって直列共振ではないという主張については否認する。これについては後述する。 |
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10 |
「6 原告の主張する『分布定数状の遅延回路』について」 |
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(1) |
被告は、原告の理論的な誤りとして、「原告準備書面2の11頁図8によると、二次巻線とこれに生じる寄生容量の等価回路を四端子回路と表現しているが、二次巻線は一つの低圧端子とひとつの高圧端子を有する二端子回路であり、昇圧トランスのコアが接地されている等のきわめて特殊な構造でないかぎり、これを四端子回路として表現することできない。」旨主張する。 |
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(2) |
しかし、同軸ケーブルと等価ではないが、トランスの巻線を分布定数状として解析する手法は本件の特許の範囲とは異なる分野において一般的に行なわれていることである。
例として、電力送電に用いられるトランスの雷サージの影響に関する解析について書籍の該当部分を証拠として提出する(甲第27号証)。ここには定在波理論や進行波理論なども記述され、既に先人たちが同様の理論で相当の解析を行なっていることが見て取れる。
したがって、四端子回路として理論構成を行なっても何ら誤りではない。 |
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(3) |
なお、甲第12号証及び甲第13号証であるが、各コイルに並列に巻線間寄生容量が記述されており、ここでは二端子回路と四端子回路と大きな差異はない。
被告同等製品に定在波や進行波が存在しているという事実を証拠とともに示す(甲第23号証)。
どのようなトランスにもある程度の分布定数性は必ずあるのである。程度問題を争うならば意味があるが、存在そのものを否定する議論には意味がない。 |
第3 |
「第3 原告立証における明白な誤り」 |
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1 |
「1 甲第17号証における測定対象物件について」 |
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(1) |
原告が甲第17号証において行なった測定は、被告製品と同等のものであり、OEMとしてDell社の同型ノートパソコンに被告製品が組み込まれている以上、この測定が被告製品の測定と同等であることは明らかである。 |
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(2) |
仮に、被告が同等でないと主張するのであれば、被告製品を検証物として提出されたい。原告は、甲第17号証のトランスと比較して測定する用意がある。 |
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2 |
「2 甲17号証における『二次側共振の測定』の明白な誤り(1)」 |
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(1) |
被告は、甲第17号証の測定結果について、「No.1のピックアップコイルの電圧は増加しているのに、コイルNo.2、コイルNo.3、コイルNo.4の二次巻線に設けられたピックアップコイルの電圧はほとんど変化していない。」「本来は、二次巻線の負荷電流値に応じて二次巻線の磁束量、すなわち電圧値が増加するはずである。」と述べ、それを不自然な結果だとしている。 |
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(2) |
しかし、これこそが、トランスの漏洩磁束性が引き起こす結果なのであって、何ら不自然ではない(甲23)。
被告製品同等のトランスが非漏洩磁束型のトランスだと仮定するから不自然なのである。 |
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3 |
二次巻線上の磁束漏れについて |
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(1) |
被告が本件特許における漏洩磁束を理解していないため、二次巻線上の磁束漏れについて、詳しく説明する。 |
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(2) |
磁束漏れの原因 |
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二次巻線上から徐々に漏れる磁束漏れの原因は主に二次巻線の分布定数性によるものと、一次巻線の磁束(主磁束)の影響を受けないインダクタによるものの二つがあるが、本件特許侵害に関してはこのうち分布定数性による磁束漏れが支配的であるので、それについては既に原告準備書面2、11頁において述べているが、再度詳しく説明する。 |
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@ |
分布定数性磁束漏れの原理 |
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二次巻線が微細なLと微細なCとで構成される分布定数回路になっていることが原因となって、二次巻線に流れる電流が遅延することによって起きると考えられる。
なお、トランスの二次巻線が分布定数性になっているといことについては過去の文献により多くの解析がされているので、分布定数性になっていることそのものは否定する余地がない。甲第28号証(電力機器講座5
変圧器日刊工業新聞社P50の図2.59)を示す。
図10 |
またこの書籍にはこれらの分布定数性による振動を定在波で解析(P58(1)定在波理論)したり、進行波で解析(P59(2)進行波理論)したりする例などが記述されており、トランス(二次)巻線を分布定数性の遅延回路として解析することはごく一般的なこととなっている。
また、このような解析例はテレビのフライバックトランスに関する記述にも多く見られる。 |
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A |
本件の特許に関して |
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分布定数性に関して、本件の特許の場合、このような分布定数状二次巻線に発生する振動を制御したことに一つの大きな発明性がある。
従来のインバータの昇圧トランスにおいてもこのような分布定数性による振動現象は認められている。
図11 |
例として上げれば、甲第14号証特許公報昭和63年5996号1項2段24行に記述されるように、「共振用のコンデンサを設けていない方の巻線やリケージインダクタンスとが不所望に共振することにより発生する」寄生振動が二次巻線上に現れていたのである。
本件特許の成果としては、この寄生振動と言われていた振動をちょうど1/4λ(つまり-90度)と一致させることにより「不所望」な共振を「所望」の共振として利用したものである。
その結果、一次巻線近傍の二次巻線下では一次巻線下励磁磁束と同位相となることにより主磁束が貫入して密結合として観測される一方、二次側の励磁電流は分布定数性遅延回路の働きで位相が遅延して行くので、磁束は二次巻線を貫通することができず、途中から徐々に漏れることになり疎結合として観測されるのである。
なお、被告乙第3号証意見書2項11「二次巻線内を伝わる磁束の時間遅れ」という記述は正しくは「二次巻線内を伝わる磁束の位相の時間遅れ」と記述されるべきであった。 |
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B |
90度遅延の理由 |
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二次巻線上の磁束漏れの原理についてアウトラインを述べれば、一次巻線近傍の二次巻線(密結合部)の磁束の位相に比べて一次巻線から最も離れた二次巻線遠端部(疎結合部の末端)の磁束の位相は1/4λ(1/4波長)、つまり-90°位相が遅れるわけであるが、そのために一次側から貫入した主磁束が、位相が同一でないので、二次巻線を全て貫くことができない。
つまりは、二次巻線遠端部に到達することができず、必ずどこかでは漏れなくてはならないのであるから二次巻線遠端部近づくに従い徐々に漏れ出し二次巻線遠端部では主磁束はちょうどほぼ0になるのである。
これが二次巻線の一次巻線近傍が密結合、一次巻線から離れた部分が疎結合となる原理である。
なお、本件特許における磁束漏れのより深い理解のためさらに詳細な説明を以下に述べるが、これはあくまでも本件特許のより深い理解のために参考までに述べるのであって、本件特許請求項との関係では二次巻線上の磁束漏れが確認できれば証明はそれで全てなのであり、以下に述べる原理説明に関しては反論を要しない。
反論を述べることは自由であるが、本件特許の審理にはなんら影響のないことであるので、後日学会で発表する機会があればその場で反論を述べられたい。
先ず、二次側負荷、つまりは冷陰極管に流れる電流は抵抗成分であるから一次側に与えられた電圧よりもちょうど180度遅れた位相になる。
負荷に流れる電流は二次側漏洩磁束を形成するのでこの二次側漏洩磁束の位相は一次側に与えられた電圧から見ると180度遅れていることになる。
一次側の巻線に与えられる電圧と一次巻線に流れる励磁電流の位相とを比べると一次巻線に流れる励磁電流の位相は電圧に比べて90度遅延している。
したがって、この90度遅延した主磁束と二次側の容量性の共振によって引き起こされる磁束引き込み効果の磁束の位相が一致することによって一次巻線近傍の密結合が生じるわけであるから(甲第4号証P62 3.2調相結合トランスの動作原理)その密結合部分の磁束の位相は一次巻線電圧に比べて90度遅延していることになる。
つまりは磁束の位相は密結合部で90度遅延し、二次側漏洩磁束の一次巻線から離れた二次巻線遠端部の磁気位相はさらに90度遅延しているわけである。
このことは二次巻線上に90度の位相のずれが生じなければならないことを意味する。
従来のトランスにおいては主磁束の位相と抵抗性負荷によって生じる二次側漏洩磁束の位相とが90度ずれているのでこれらのずれた磁束の位相は合成されて二次巻線全体を貫く二次側鎖交磁束となるわけであるから、一次側鎖交磁束と二次側鎖交磁束とは大きく位相が食い違い、この食い違う位相の矛盾を全て一次巻線と二次巻線との間の磁束漏れにより吸収しようとするので、一次巻線と二次巻線との境目に磁束の漏れが集中していたのである。
ここで、二次巻線が分布定数状になっていることで、その分布定数回路の遅延時間をちょうど1/4波長の周波数と一致させることによって、ちょうど90度の遅延を生じさせることができる。
つまり、磁束の位相の矛盾を解消してやるように、二次巻線上の元来不所望な共振であった寄生振動の1/4波長の長さを二次巻線部のボビンの長さと一致させることによって所望の共振として利用するものである。
つまりは磁束の引き込み効果と二次側抵抗成分に流れる電流による二次側漏洩磁束の位相のずれ-90度を、分布定数性の遅延の条件1/4λと一致させているのである。
このことによって元来位相が食い違っていた主磁束と二次側漏洩磁束の位相とが分布定数性の遅延回路を介して接続されることで磁束位相の矛盾を非常にエレガントに解消しているものである。 |
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C |
分布定数性の他の証拠(甲23) |
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写真7-1 |
写真7-2 |
二次巻線が分布定数性の遅延回路であると進行波や定在波が発生する。
被告製品と同形状の被告製品相当トランスの二次巻線に巻かれた磁束検出コイルに発生する電圧を、二次側に接続される負荷のインピーダンスをいろいろと変えて観測すると、進行波や反射波による"うねり"現象が観測される。
この"うねり"現象の存在も、二次巻線が分布定数性の遅延回路を形成していることの証拠であるが、さらに、分布定数性遅延回路の特性インピーダンス
と考えられるインピーダンスと、二次側の負荷抵抗
とが一致した場合に進行波になる、という現象も、分布定数性遅延回路の特徴である特性インピーダンスの存在を証明するものである。(甲第13号証P108ディレイラインの不整合反射、数式
、及び )
右の写真は上から負荷抵抗 =10kΩ,20kΩ,40KΩ,80kΩ,160kΩ(それぞれ寄生容量相当10pFを並列に接続)とした場合に発生する磁束検出コイルの電圧を観測したものである。
=40kΩとしたときに二次巻線上のコイルa,b,cの電圧の波高値がほぼ等しく位相が遅れる"進行波"が観測される。
したがって、分布定数性二次巻線の特性インピーダンスは約40kΩである。 |
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B |
被告製品ではどのくらいの反射波が存在するか |
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さらに分布定数性の遅延回路が実在し、その仮定が正しいことを裏付けるため、被告製品の場合、進行波と反射波がどのくらいの比率で混在しているか解析を行なってみた。
分布定数性二次巻線の特性インピーダンスは約40KΩであり、一方、管電流6mA時の冷陰極管の等価抵抗は寄生容量の測定より91KΩであるから、このトランスを直接冷陰極管に接続すると若干のインピーダンスの不整合が起こり、二次巻線上に発生した進行波が二次巻線高圧部から冷陰極管に供給された際、電力が完全に吸収されずにその一部が反射して反射波となる。(甲第13号証P108)(高周波回路の設計・製作CQ出版社P23ないしP26)この反射波と進行波が合成されると定在波が生じ、うねりとして観測される。(甲26物理の考え方下増進会出版社P14およびP25)
反射波の比率を0%からしだいに増やしていくと、ほぼ35%の反射波が存在した場合、甲第17号証拠図10(図4と記述してあるのは図10の誤り)と同様の電圧のうねり現象が観測された。(L4電圧360mV/L2電圧160mV=2.25倍)
したがって、被告製品においてもほぼ同様の分布定数性の遅延回路が形成されていると考えられる。
反射波の比率と伝送線上に現れるうねり
反射波0%(全部進行波)
反射波20%
反射波35%
反射波50%
反射波100%
図12-2 |
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(3) |
以上の解析結果は、二次巻線に分布定数性の遅延回路が形成されていることを示すために行なったものである。 |
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(4) |
いずれも分布定数性の遅延回路を形成していることを前提に行なった実験結果に矛盾はなく、分布定数性の遅延回路の存在は明らかである。 |
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(5) |
これらの実験結果から、甲17号証写真6、図10の結果と合わせ、二次巻線上から徐々に漏れる磁束は実存することは明らかである。 |
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4 |
「2 甲17号証における『二次側共振の測定』の明白な誤り(2)」 |
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(1) |
また、被告は甲17号証による二次巻線上の漏洩磁束の測定結果に対して正確ではないと言っているが、何ら理由がない。 |
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(2) |
鰐口クリップには被告が指摘するような、実測結果に著しい誤差を生じさせる接触抵抗はないし、この実験は非常に再現性が良く、また、他の相当品の測定においても同様の結果を何度でも確認することができる。
そもそもが、被告準備書面乙第6号証の測定結果報告書においても被告自らが鰐口クリップを用いて測定しており、これでは自ら不正確であると主張している測定方法に基づいて測定したことになってしまい、言うことが矛盾している(乙第6号証図5測定装置外観写真)。
被告は測定結果に基づいて反論すべきである。 |
第4 |
乙第7号証にいう、直並列共振について |
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1 |
被告は、甲第18号証にいう「共振」とは、直列共振回路を構成して、共振周波数で作動して、放電管に高い放電電圧を供給するものではないとして、MPS社の技術説明書(乙第7号証)を提出する。 |
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2 |
直並列負荷共振(SPLR) |
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図13-1 |
被告は、乙第7号証は、直並列負荷共振(SPLR)であり、直列共振ではない旨主張する。
しかし、この直並列負荷共振とは、直列共振と並列共振の組み合わせであって、本件特許発明の直列共振を排斥しているものではない。 |
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(1) |
乙第7号証MPS社技術資料では、直並列負荷共振(SPLR)を利用していると言いつつ、乙第7号証図4bにおいては直列共振回路部分しか記述していない。 |
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(2) |
図13-2 |
本来、直並列共振回路を精密に検討するのであれば正しくは図13-2のように並列共振成分を記述しなければならないのであるが、簡略化のためと称して省略してある。
また、乙第7号証図5のシミュレーショングラフも並列共振成分を省略してシミュレーションしたものである(乙第7号証P8)。
したがって、並列共振成分はMPS社のICにおいても技術の本質部分ではないことは明白である。 |
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(3) |
被告製品も、MPS社のICを使用しており、被告製品においては直並列負荷共振の中でも直列共振成分のみにしか着目していないことは明らかである。
したがって、被告製品の直並列負荷共振(SPLR)は本件特許明細書における直列共振と同等のものである。 |
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(4) |
直並列負荷共振(甲第4号証図10、及び乙第7号証P7)とは、直列共振と並列共振の組み合わせであって、本件特許発明の直列共振を排斥しているものではない。
すなわち、並列共振の存在が直列共振によって生じる効果を滅失するものでない限り、直列共振は直並列負荷共振の一部である。
直列共振によって生じる効果とは |
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@ |
昇圧効果(明細書【0010】放電管に高い電圧を給電する) |
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A |
力率の改善(明細書【0021】また、容量成分と誘導成分が打ち消しあうので力率が改善され、その結果、昇圧トランスの一次側に流れる無効電流が少なくなるため、銅損による損失が少なくなりインバータ回路の効率が向上する。)
既述のとおり、力率の改善効果は本件特許の効果として重要なものである。
そして、直列共振による力率改善効果は直列共振の働きによって、直列共振頂点よりも少し低い周波数に発生する。
被告は力率改善効果の生じる周波数が直列共振頂点と一致しないことをもって、直列共振の存在を否定しようとしているが、本件特許における力率の改善効果は直列共振頂点と一致することを意味するものではない(甲第26号証)。 |
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(5) |
従来型インバータと本件特許の力率改善効果(甲第25号証) |
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そこで、従来型インバータに比べた、本件特許の力率改善効果について述べる。 |
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@ |
従来型インバータの動作点は-90degの誘導性である |
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甲第25号証写真4-1及び写真4-2に閉磁路トランスを用いた従来型インバータの写真を示す。
また、このインバータのトランスの一次側から見たアドミタンス・位相特性を甲第25号証図4-1に示す。甲第25号証図4-2は甲17号証のものと同じである。比較のため引用した。
この従来型インバータは閉磁路トランスを用いているため、管電流安定化のためのバラストコンデンサが必須となっている。
甲第25号証写真4-2の青い部品がバラストコンデンサである。 |
写真4-1 |
写真4-2 |
このインバータのトランスの一次側から見たアドミタンス・位相特性を甲第25号証図4-1を見ると、このインバータの動作点周波数20KHzにおける位相特性は約-85.3degとなっており、かなりの誘導性である。
力率を計算すると、
より、
となり、かなり力率が悪い。
ちなみに、力率が良いとはその値が1に近いことであり、逆に力率が悪いとは0に近いことである。
一方、甲第17号証のインバータの場合、動作周波数55KHzにおける力率は、
より、
であり、従来型インバータの力率
と比べると相当な改善効果が得られている。 |
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A |
本件特許明細書との関係 |
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既述のとおり、本件特許の特徴の一つは直列共振点近傍に生じる力率の改善効果を利用することにある。(明細書【0021】また、容量成分と誘導成分が打ち消しあうので力率が改善され、その結果、昇圧トランスの一次側に流れる無効電流が少なくなるため、銅損による損失が少なくなりインバータ回路の効率が向上する。)
ここでいう力率の改善とは位相が0degになることを意味しない。
従来型インバータが-90deg付近で動作させるのに比べて、本件特許では-90degよりも相対的に0degに近い動作点で動作させることにより相当な効果が期待されるものである。
具体的には例えば-60degにおける力率は0.5であるから一次巻線に流れる励磁電流が半分になっていることを意味する。
これは十分な発熱低減と変換効率の改善効果があることを意味する。
このような力率改善効果は並列共振点と直列共振点との間に生じるので、本件特許はその改善効果が生じる範囲でインバータを使用することを示している。また、被告は被告製品が「直並列負荷共振(SPLR)であって」本件特許の直列共振と異なると主張しているが、直列共振によって生じる効果が並列共振成分の存在によって特に滅失するものでないかぎり、本件特許明細書に述べる直列共振が直並列負荷共振と異なるものではない。 |
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(6) |
直並列負荷共振と本件特許の効果について(甲第26号証) |
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なお、回路シミュレータにより直列共振による昇圧効果のシミュレーションを行なった。 |
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@ |
回路シミュレータ |
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用いたシミュレータ
Micro-Cap X/CQ判 |
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A |
被告乙第7号証の検証 |
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乙第7号証MPS社技術資料図5は同図4bの直列共振回路をシミュレーションしたものである。
図14-1 |
このMPS社が示すシミュレーション結果自身がそもそも本件特許の直列共振点付近の昇圧効果(明細書【0013】)を表している証拠であるが、次に、直列共振点付近の力率改善効果(明細書【0021】)についてもシミュレーションにより検証する。
被告製品の乙6号証の測定結果には疑問が残るため、同等製品のFDK製T-1033A-541(JIS
C 5321 によるLo=1000mH、Ls=280mH)をもとに図14-2の回路でシミュレーションを行った(甲第26号証)。
図14-2 |
なお、被告が乙第6号証で測定した被告製品の測定結果は後述するように、恣意的であり誤っているので、今回は同等製品でありかつ、公式にホームページで公開されている被告関連会社のFDK製品の数値(甲第39号証)に基づいてシミュレーションを行なったが、被告において、分布容量の影響のない周波数で被告製品を再測定した数値を提示するならば、その数値に基づいて再シミュレーションを行なう用意がある。
並列コンデンサを15pF、トランス二次巻線の分布容量と液晶パネル寄生容量の合計を約10pFとすることにより並列容量は約25pFと仮定したところ、乙7号証図5と非常に良く似た結果を得ることができた。(図14-3)
図14-3 |
図14-3の上の図は伝達特性であり、下の図は入力側から見た位相特性である。
被告は準備書面(2)の中で、直列共振点とは位相の0degでなければならないと述べているが、それは、被告乙第2号証の2「イラストで電気のことがわかる本」表紙172ないし175項第で示されるように、抵抗成分RがL・C素子と直列に接続されている直列共振回路の場合だけであり、本件のように、共振回路を構成する素子の一方に並列に抵抗Rが接続されるような例では、直列共振回路構成であっても力率最良点(0deg)と共振頂点は必ずしも一致しない。力率最良点は直列共振周波数よりも少し低い周波数になる。
被告提示の直列共振回路(乙第7号証同図4b)に基づいて検証した結果においても、本件特許の重要な効果である、直列共振回路による昇圧効果と、直列共振付近の力率改善効果のそれぞれを確認することができた。 |
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B |
被告乙第7号証に並列共振成分を加えた検討 |
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次に、並列共振が本件特許の直列共振の持つ効果にどのような影響を与えているのかについて詳細に検討する。
なお、乙第7号証図4bは省略しすぎであり、実態を正確に表していない。
被告製品は直並列負荷共振を利用していると述べられているので、より精密に検証するため、乙7号証図4bに、さらにトランス3端子等価回路から導かれる並列共振成分を加えて検証した。
その結果、より実際のインバータ回路に近い結果を得ることができた。(図14-4、図14-5)
図14-4 |
図14-5 |
三端子等価回路に代入するそれぞれのインダクタの値は以下の式により求めた。 |
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図14-5は、上から伝達特性、入力電流(アドミタンスに比例)、位相特性である。
並列成分の追加により、次のような結果が得られた。 |
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a |
直並列負荷共振よりも低い周波数において、位相特性がほぼ-90degになる。 |
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b |
Loと二次側容量による並列共振点が再現された。 |
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c |
直列共振点付近の昇圧効果が認められる。 |
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d |
直列共振点付近に生じる力率改善効果が認められる。 |
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など、より実際のインバータ回路に近いシミュレーション結果が得られた。
また、詳細に見ると、さらに、 |
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ア |
力率の改善効果が得られる周波数は、直列共振のピークよりも少し低い部分に発生する。 |
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イ |
抵抗(冷陰極管)のインピーダンスが低くなると、直列共振点、並列共振点のピークが見えにくくなる。 |
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などの性質も再現され、このシミュレーション結果はより実態に近いものであることは明らかである。
直列共振による力率改善効果は直列共振の働きによって、直列共振頂点よりも少し低い周波数に発生する。
また、昇圧効果や、力率改善効果は並列成分を追加した後も直列共振点付近に生じることは、直列共振のみをシミュレーションした図13-3の結果と基本的に変わることがなく、並列共振成分は、本件特許の持つ効果を滅失するものではないことが確認できる。
したがって、直並列負荷共振(SPLR)の直列共振成分は本件特許明細書の、直列共振と等価である。 |
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(7) |
直列共振の昇圧効果について |
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本件特許は明細書【0010】「チョークコイルの誘導成分を二次側回路に生じる寄生容量またはこれと並列に接続された補助容量によって打ち消してやることにより直列共振回路を構成し、放電管に高い放電電圧を給電する」ものであり、この効果をシミュレーションにより確認する。 |
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@ |
等価回路 |
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このシミュレーションの目的は、並列容量のある場合とない場合について、伝達特性(トランスの昇圧効果)を比べたものである。
直列共振点、並列共振点を明確にするために、同時にR1、及びR2に発生する電圧、R3、R4を流れる電流についてのシミュレーションも行なった。
図14-6の等価回路により図14-7の結果が得られた。
図14-6 |
図14-7 |
上の二つの図は並列共振点と直列共振点を明確にするため開放状態(R1及びR2を2MΩ)にして並列共振点、及び直列共振点を計ったものである。
下の二つの図は6mAにおける冷陰極管の等価抵抗を約100KΩとして、並列容量がある場合とない場合の伝達特性の比を測定したものである。 |
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A |
結果 |
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被告主張によれば被告製品のトランスは漏洩磁束性が少ないのであるから、実用とされる周波数において、の関係を保っていなければならず、周波数によって伝達特性が低下することはあり得ない。
しかし、シミュレーション結果によれば並列容量がない場合、放電管(抵抗R1、R2)の両端に発生する電圧は約30%以上低下している。
このようなことから見ても被告製品のトランスは漏洩磁束型である、或いはトランスの漏洩磁束性を利用して使っていることは明白である。
並列容量が存在することによって、この低下した電圧を「並列に接続された補助容量によって打ち消して」いる様子が現れている。
また、共振による昇圧効果が最大となる周波数は直列共振点よりも少し低い周波数に発生していることも示されており、本件特許の効果が直列共振点の頂点に限るものではないこともまた明白である。
さらに別の角度から並列容量による効果を検討すれば次のようになる。
被告乙第6号証の測定結果のうち二次換算漏れインダクタンスLts(JIS
C 5321標記Ls)の値256.7mHが正しいと仮定すれば、液晶パネルの冷陰極管の6mA時のインピーダンス(抵抗成分)は91KΩであるから、Ltsのリアクタンスが91KΩになる周波数(ターンオフ周波数)を求めることができる。
したがって、被告製品のインバータは56.4KHzにおいて、トランスの漏洩磁束性がない場合の本来の昇圧比に比べて
(約0.707)倍の電圧しか得られないことになる。(なお、この計算値は乙第6号証の正確な再測定を待って再計算を行ないたい。)
この30%の電圧低下を並列に接続された容量が補うのである。
この30%の電圧低下というのは冷陰極管の点灯にとっては致命的な意味を持つ。
なぜならば、甲第19号証P14一段最下行「しかし、ある程度まで電流が流れると、電圧の減少はゆるやかになり、図1のようにほぼ定電圧特性を示します。」の記述、及び、甲5号証図11及び図12冷陰極管VI特性に示すように、冷陰極管の点灯電圧は実用域でほぼ一定なのであるから、放電電圧が僅かに変化するだけで管電流が大きく変化する。
また放電電圧が僅かに不足するだけで不点灯になる。
したがって、並列容量が存在することで共振し、それによって起きる電圧の上昇効果は冷陰極管の点灯にとって実に重要なものである。
なお、被告は本件特許の直列共振について、インバータを直列共振頂上において動作させることであると主張しているが、本件特許明細書に述べる昇圧効果は直列共振周波数頂上よりも低い周波数に生じており、本件特許技術に基づくインバータ回路は直列共振点頂上における動作を意味しているものではない。(参考資料2,3に対する反論)
また、被告は参考資料1において、甲第17号証図4の中で「アドミタンスから見た極大値は原告主張の65KHz近辺にはなく・・・」と述べているが、シミュレーショングラフ図14-7を見てもわかるように、蛍光管インピーダンス(図14-6R1,R2に該当)が低くなると共振がダンプされて見えにくくなるだけのことであり、共振点がなくなるわけではない。(並列抵抗R1が2MΩの場合、直列-並列共振点がはっきり観測されるが、R1を100KΩとすると、直列-並列共振点は非常に見づらい。この様子は図14-5でも表れている。)
甲第17号証末尾図4(図10の誤り)5mAの測定結果と同時に3mAの測定結果も示したのは、管電流が少なくなると冷陰極管等価抵抗値が高くなるために、アドミタンス極大点がより明確にわかるため比較のために示したものである。
3mAの図によれば、アドミタンス極大点(直列共振点)が60KHzであることは明白である。 |
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(8) |
直列共振(点)周波数と並列共振(点)周波数 |
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次に、漏洩磁束性のあるトランスの二次側に共振回路がある場合に並列共振回路と直列共振回路が等価的に生じることについて述べる。
さらに、本件特許発明の直列共振周波数の求め方についても言及する。
図15-1 |
二次側に容量性の負荷を持つトランスの等価回路を一次側から観測すると直列共振回路と並列共振回路の組み合わせたものとして観測される。
甲第4号証P59図10及び、甲第5号証P28図18にも述べている。
これは被告が乙7号証MPS社資料で述べているSPLR(直並列負荷共振)と同じものである。
この等価回路は巻線の抵抗や分布容量の影響を省略すれば簡単な三端子等価回路(甲第32号証 図解変圧器東京電気大学出版局P57ないしP60変圧器の等価回路参照)から導くことができる。
実際に甲第24号証図2-2のトランスの二次側に何も接続しないで一次側からアドミタンス、位相特性を測定すると二次巻線側に存在する寄生容量の影響により、図15-2のように直列共振と並列共振が観測される。
図15-2 |
並列共振はトランスの二次側の励磁インダクタンスLoと分布容量との共振であり、直列共振はトランス二次側のJIS
C 5321でいうところの漏れインダクタンスと分布容量との共振である。
この周波数からLoとLsとの比を求めることができるので、本件特許とは関係ないが結合係数の算出も可能である。
また、トランスの分布容量の値もわかる。
このトランスと並列に接続された補助容量、液晶パネルの蛍光管寄生容量の値がわかると二次側共振周波数の計算が可能である。
算出例を示すと以下のようになる。
このトランスの分布容量は、甲第24号証図2-1の測定により、
図15-2より、
、 であるから、
また、分布容量は、
→
ここで、これらの値を基に、並列に15pFと蛍光管寄生容量8pFを並列に加えて直列共振の周波数を計算すると、
ということになり、ほぼインバータの動作周波数と直列共振の周波数とが一致する。
このように甲17号証の被告相当製品AMBIT
J07I037.02について、測定されたトランスの漏れインダクタンス(JIS
C 5321)と二次側容量との共振周波数を計算するとインバータの動作周波数とほぼ一致するので、この製品が直列共振周波数を利用していることは疑いがない。
なお、本件特許との関係ではこの直列共振の周波数のみが重要であり、並列共振の周波数は関係がない。 |
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|
(9) |
直並列負荷共振(SPLR)について検討することは、そもそもトランスの漏洩磁束性を前提とした議論であり、磁束漏洩しない或いは磁束漏洩のほとんどないトランスの議論ではない。
被告の主張では漏洩磁束性を前提とした主張と漏洩磁束性を否定した主張とが混在・錯そうしており論理が破綻している。
被告自身、現実には磁束の漏洩のないトランス(完全な閉塞磁束型トランス)がないことは認めているものの、被告製品が積極的に磁束の漏洩を利用しているのか、それとも、従来型の磁束の漏洩がほとんどないトランスであるかについては明確にしていない。この点、どちらを主張するのか明確にすべきである。
なお、被告製品は、イ号目録から明らかなようにバラストコンデンサを有していない。
しかし、放電管は管電流が増えれば増えるほど電圧が下がる負性抵抗特性を持っているので、放電管をそのまま電源に接続すると回路が破壊される(甲第37号証 照明工学
電気学会刊74頁ないし77頁)。
そこで、管電流を安定させるためにバラストコンデンサ、バラストチョークコイル、磁気漏れ変圧器のいずれかが必要となるにもかかわらず、被告製品にはバラストコンデンサもバラストチョークコイルもない。
したがって、これだけでも、被告製品は漏洩磁束型トランス(磁気漏れ変圧器)としての使用を前提としていることは明白であり、被告製品のトランスが漏洩磁束型トランスであることは明らかである。 |
第5 |
結合係数について |
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1 |
被告は、結合係数についての誤った理解、及び、誤った測定方法に基づき独自の議論を展開しているので、以下、この点について反論する。 |
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(1) |
結合係数は、漏洩する磁束と漏洩しない磁束との比ではない。
被告は、準備書面(2)5頁において、漏洩する磁束が漏洩しない磁束より大きく、一次巻線と二次巻線との結合係数は0.5に満たないものと解される」と述べているが、結合係数の意味を根本的に誤解している。 |
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(2) |
以下、結合係数について説明する。
まず、トランスの基礎知識として、 |
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@ |
漏洩磁束は二次側(一次側)の巻線に流れる電流に比例する。 |
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A |
「出力側に負荷を接続すると、等価回路中の漏洩インダクタンスの部分に電流が流れ、これによりコア内に磁束が発生します。」(甲第35号証 トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P62)の記述にあるように、二次側に流れる電流が少なければ漏れる磁束は少なく、電流が多くなれば漏れる磁束は増えるのである。 |
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B |
漏洩しない磁束つまりは主磁束であるが、これは負荷の大小にかかわらずほとんど変化しない。
「共有する磁束(主磁束)については、コイルAとコイルBの電流の関係により負荷のないときと同じ値をとり続けます。」(甲第35号証 トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P62)とあるとおり変化しないのである。
詳細に見ると、負荷があるときはむしろ少し減る。 |
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C |
一方、漏洩磁束の絶対量というものは主磁束に比べて非常に増えやすい性質がある。「この電流は信号として流れる電流ですから励磁電流よりもずっと大きいのが普通です」(甲第35号証 トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P62)に記述されるとおり、信号電流、つまりはここでは二次側負荷に流れる電流は励磁電流よりも非常に大きいわけであるから、わずかな漏れインダクタンスがあっても非常に大きな漏れ磁束を発生することになる。 |
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D |
磁束漏れの大小と結合係数とは比例しない。
もとより結合係数というものは相互インダクタンスと漏洩インダクタンスとの関係式であって、漏れない磁束と漏れる磁束との関係式ではない。 |
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この関係式を以下に示す。
自己インダクタンス
、
、
相互インダクタンス
、
一次側漏洩インダクタンス
二次側漏洩インダクタンス または、
結合係数k
などとの関連は詳しくは、
トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P58第2-18図及び第2-19図)参照
結合係数と相互インダクタンス・漏洩インダクタンスの関係式 |
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E |
したがって、磁束漏れの大小の議論をしたいのならば相互インダクタンスと漏洩インダクタンスとの関係式である結合係数を用いて議論するのは不適切である。 |
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F |
そもそも、結合係数という数値はほとんど1に近い数値を取るものである。「結合係数kがk=0.9だと通過する周波数幅が狭く、また、損失の最小値が1dB近くあっていささか使用に耐えません。k=0.999程度になってやっとトランスらしくなってきます。」(甲第35号証 トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P58〜P59)などの記述にあるとおり、かなりの漏洩磁束性でもほとんど1に近い数値になる傾向があり、この数値を用いて議論することは誤解を生じやすい。 |
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|
|
G |
参考までに甲第5号証図19で示した電源トランスの結合係数は0.9987である。いずれにしても結合係数0.5という数値と漏れる磁束量との関係には根拠がない。 |
並列共振周波数
、直列共振周波数
→
(JIS
C 5321より) |
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H |
磁束の漏れやすさを議論するのであれば、直列共振周波数
と並列共振周波数
との比である
: で議論した方が実用的であるし、数値の性質の持つイメージによるミスリードが少ない。 |
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I |
は二次側容量との間で直列共振(共振周波数は
)を形成するインダクタ値である。 |
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|
J |
は二次側容量との間で並列共振(共振周波数は
)を形成するインダクタ値である。 |
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|
|
K |
本件特許で大切なのは直列共振周波数
のみである。したがって
値のみが重要である。並列共振(共振周波数は
)は本件特許明細書との関係では意味がない。
したがっての値は本件特許明細書との関係では意味がない。 |
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|
|
L |
本件特許の議論で大切なのは
の
の値だけである。
はどのような値であっても本件特許には関係ない。
したがって、この関係式から導かれる結合係数kは本件特許には関係ない数値である。 |
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(3) |
以上のとおり、漏洩磁束の量というものは結合係数によって絶対固定というものではなく、負荷に流れる電流の大小によって変化するものである。
一方で、漏洩しない磁束の量というものは負荷の大小によってほとんど変化しないから、漏れる磁束の量と漏れない磁束の量を比較するのであれば、甲第17号証のとおり、実際に負荷を接続した状態で液晶パネルに接合して通常のノート型パーソナルコンピュータの使用に耐える明るさに当該液晶パネルのバックライトを点灯させた場合、に漏れる磁束の量を実測して評価する方法が最も好ましい。
また、参考までに、甲第35号証(トロイダル・コア活用百科(CQ出版社刊P66〜P67))には「トランスを理論を用いて回路的検討を加えることはできますが、設計により希望のものを作ることはたいへん難しく、実測に頼らざるを得ません。」との記述がある。
つまり、磁束漏れのあるトランスにおいてその漏れる磁束の絶対量を評価する場合には、実測に勝る方法はないのである。 |
|
|
(4) |
このように、漏洩磁束を議論するのに、結合係数を議論することが無意味であるが、乙第6号証は、測定方法としてもあまりに恣意的な数値であるため、この点について指摘する。 |
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|
@ |
被告関連会社の同一形状同一用途向けトランスの数値との差
被告製品と同形状のトランスは、ノートパソコンの液晶ディスプレイ用に被告関連会社からも製造・販売されているところ、これらの会社の資料と今回の被告製品の測定資料とはあまりにも差異が大きい。
トランスにはフェライトコアと銅線とプラスチックボビン以外の部品は使用されておらず、同一形状かつ同仕様ならば電気的性質はさほど異なるものではないはずである。 |
品
番
(代表仕様品番) |
巻線数[Turns] |
S1インダクタンス
@1kHz[mH] |
S1リーケージ
インダクタンス @1kHz[mH] |
Gap
[mm] |
P1 |
P2 |
S1 |
T-1033AS
カスタム |
- |
- |
- |
- |
- |
-*3 |
T-1033AS-541 |
16 |
- |
1,880 |
1,000 |
280 |
0 |
T-1033AS-546 |
22 |
- |
T-1033AS-540 |
18 |
|
1,900 |
335 |
140 |
0.10 |
|
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|
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この表よりS1インダクタンス(
に該当)(乙第6号証被告標記Ls)とS1リケージインダクタンス(
に該当)(乙第6号証被告標記Lts)から結合係数を求めると、
(JIS
C 5321)により、0.849と求まる。
この数値は被告提示の0.962とあまりにも異なる。
これは、被告のS1インダクタンス(に該当)(被告標記Ls)の測定値が異常に大きいせいである。
なお、乙第6号証の「二次巻線励磁インダクタンス」の用語は誤りであり、被告の図4(a)の測定で得られる値は正しくは「二次巻線自己インダクタンス」である。
「二次巻線励磁インダクタンス」とは、三端子等価回路の二次側換算相互インダクタンスに該当する値である。 |
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A |
測定周波数について |
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既に述べたとおり、被告は乙第6号証において、65KHzで測定しているが、なぜ、あえて65KHzで測定しなければならない必然性が不明である。
上述したような、FDK(富士電気化学)の例では1KHzで測定しておりまた、被告提示の乙第7号証MPS社技術資料17頁においても10KHzで測定している。
そもそも、JIS C 5321でも次のように注意書きがある。
「3 測定上の注意事項 測定周波数の規定値は測定誤差を小さくするため、供試コイルのインダクタンスに比べて、供試コイルの分布容量のリアクタンスが、十分に大きくなるように選ぶ。」(甲第31号証)。
ところが、65KHzであると、分布容量の影響を強く受けてしまい、正確な測定ができない。
そこで、ほぼ同一形状同用途の2製品について被告と同様の方法で測定を行った結果、周波数65KHz付近においては分布容量の影響を強く受けたと見られるLo(被告標記Ls)の数値の上昇が見られた(甲第24号証)。
このLoの測定数値が大きくなると
の式により、見かけ上の結合係数が大きくなったように見えるが実際の結合係数が上昇したわけではない。
なぜあえてこのような周波数を選んだのか大いに疑問が残るが一般的に用いられる等級の低い装置によって測定していたとするのであれば、測定結果が分布容量の影響を受けていることを不注意によって見逃す可能性がないとも言えない。
しかし、被告が測定に用いた装置は広い周波数範囲において画像で確認しながら数値を測れるものであり、かなり高度なレベルの測定装置である。
少なくともこの装置で測定するかぎりにおいては分布容量の影響を見逃すことは普通ではあり得ない。
したがって、あえて65KHzを選んだ意図に対して釈明を求める。或いは同時に10KHzまたは1KHzにおける測定結果を示さなかったことに対する釈明を求める。 |
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(5) |
二次巻線励磁インダクタンスLsの測定値について |
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なお、原告において、被告乙第6号証の測定法に基づき、二次巻線励磁インダクタンス(=二次巻線自己インダクタンス、被告標記Ls、JIS
C 5321標記Lo)を測定した。
測定したトランスはともにDELL社製ノートブックの14インチ液晶パネルのインバータに使われているもので、回路構成は全く同一かつ、トランスも被告製品とほぼ同一同形状である。 |
図2-1ないし図2-2 DELL社LATITUDE C600
14.1インチ液晶パネル 日本IBMDP/N0978ET|C/OPH|Rev
A06
インバータ AMBIT J07I037.02 (甲第17号証と同一のもの)
回路図 甲第17号証に示す |
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図2-3ないし図2-4 DELL社LATITUDE C600
14.1インチ液晶パネル 韓国三星電子LTN141X8-02
インバータ AMBIT K02I024.00
回路図 甲第17号証と同一 |
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A |
測定結果 |
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これらのトランスの1KHzから400KHzまでの特性を測定した。
図16-1の上の図はトランスの一次側から測定したインピーダンス・位相特性であり、下の図はLs-Rs特性である。
これらのトランスの1KHzから400KHzまでの特性を測定した。
図16-1の上の図はトランスの一次側から測定したインピーダンス・位相特性であり、下の図はLs-Rs特性である。
図16-3の上の図はトランスの一次側から測定したインピーダンス・位相特性であり、下の図はLs-Rs特性である。
なお、インピーダンスはアドミタンスの逆数、 であるから、アドミタンス・位相グラフとは上下が逆になっている。
測定器でLsと表示されている数値が被告標記Ls(
JIS C 5321でいうところのLo)である。
測定周波数65KHzにおいて明らかに分布定数の影響を受けたと見られるLs値の上昇が見られる。
既述したとおり、正しい測定を行なうにはこのような分布容量による影響を受けない周波数で測定しなければならない。 |
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第6 |
密結合・疎結合の存在 |
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1 |
密結合について |
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(1) |
本件特許請求の密結合とは、共振により起きる磁束引き込み効果によって生じる。
密結合は二次側に共振を起こさせた場合必然的に発生する(甲第4号証月刊ディスプレイP61ないしP63)。
したがって、密結合はトランスに単独で存在するものではなく、二次側の共振により従属的に発生するものである。
この効果は特に目新しいものではなく、無線技術従事者の間では中間周波トランスの原理として一般的に知られているものである。本件特許ではその効果を放電管の電力変換に応用したものである。
無線通信技術を電力変換に応用するという着眼点が本件特許のさらにまた別の発明性に該当する部分でもある。
なお、インバータ回路を生産するメーカーを列挙すれば、中央無線株式会社、長野日本無線株式会社、太陽誘電、アルプス電気、ミツミ電機、東光、その他など、無線機メーカーが多いのであるが、これは無線機技術とインバータ回路の技術が近いことを示している。
中間周波トランスについては参考までに甲第35号証トロイダル・コア活用百科CQ出版社P66ないしP67にあるとおり、結合係数が0.1或いは0.01であっても実用的な結合が得られることが示されており、また、バンドパスフィルターが構成できるという記述があるところも本件特許技術と共通するところである。 |
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(2) |
なお、バンドパスフィルターの構成原理については本件特許請求項と直接関連するわけではないので参考までに述べれば、被告が主張する乙7号証拠及び被告製品の回路の説明3.「C25、C26、C16、C9はデカップリングコンデンサであり、直流と交流を分離するためのものであり、バンドパスフィルター回路における下限の周波数帯域を決定する。」の記述は誤りではないが、これは冷陰極管のインピーダンスがトランスのリケージインピーダンスに比べて低い場合に言えることであり、冷陰極管のインピーダンスがトランスのリケージインピーダンスに比べて十分に高い場合にはバンドパスフィルターの下限の周波数を決める原理は中間周波数トランスの原理に近くなる。
この場合バンドパスフィルターの下限周波数は被告自らが主張する「直並列負荷共振」の説明で引用した被告証拠乙7号証の図4の中であえて省略された「並列インダクタンス成分」によって決定されるものである。 |
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2 |
疎結合について |
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(1) |
被告は磁束模式図について恣意的な分類であると主張しているが、主磁束、漏洩磁束その他の分類は全て書籍に基づくものであり、何らの作為はない(甲第8号証P173「鎖交」の定義、同P174図8.4、P203図9.17「相互磁束」、「漏れ磁束」の定義、甲第9号証P170ないしP173"トランスの漏れ磁束、主磁束の概念、甲第10号証P49図3.9及びP50「漏れ磁束」、「主磁束(相互磁束)」の定義、甲第13号証P90図8-4「鎖交磁束」の定義)。 |
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従来の漏洩磁束について |
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全ての書籍に記述されているように、一次巻線、二次巻線にそれぞれに鎖交する磁束はそれぞれのコアを貫いていて決してそれぞれのコイルの途中から漏洩していない。
これは、一本の銅線で巻かれたコイルであるソレノイドの内部の磁界は入門電気磁気学ムイスリ出版P147「すなわち、ソレノイド内部では(A/m)の平行磁界であることがわかる。」に示されるように、コイル途中からの磁束漏れは基本的にほとんどないか、あっても同P133図6.5にあるように巻線近傍で回転する磁界のみであるということに基づいている。
つまりは主磁束も漏洩磁束もそれぞれの巻線を貫いている。それが従来の漏洩磁束トランスである。
したがって、従来の漏洩する磁束は一次巻線と二次巻線との境目で漏れるものであり、本件特許発明のように、二次巻線が密結合と疎結合とに分かれ、二次巻線の部分から徐々に磁束が漏れ出すようなことはない。 |
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A |
本件特許の漏洩磁束について |
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既述のとおり、本件特許の漏洩磁束は、二次巻線の途中から徐々に漏洩するものである。
本件特許の磁束には、実線で示される磁束1と破線で示される磁束2がある。
それぞれの磁束の定義を文献に従えば、主磁束または相互磁束とは一次巻線及び二次巻線双方と鎖交する磁束のことであるから磁束1は主磁束である。
漏洩磁束または漏れる磁束とはその巻線とのみ鎖交し、他の巻線と鎖交しない磁束のことと定義されているのであるから、磁束2は二次側漏洩磁束である。
また、従来の漏洩磁束は一次巻線と二次巻線との境目で漏れるのであるからその漏れる場所を疎結合と言う。或いは、密結合なら磁束はコアで形成される"磁路内にあ"ることが前提であるから(乙1号証判定8項34行ないし37行)、逆を返せば磁束が磁路から外れて空気中に出ていればその部分は疎結合である。
したがって、本件特許の場合、二次巻線から徐々に漏れているのであるからその漏れている場所を疎結合という。
磁束2の中心コアを通り抜ける総量は一次巻線近傍では少なく、一次巻線から離れるにしたがって増加している。
二次巻線遠端部ではほとんどが磁束2で占められている。
磁束2の中心コアを流れる総量は一次巻線から離れた部分で最も多くなるわけであるから、その部分が「一次巻線から離れた部分の疎結合部」である。
鎖交する磁束から発生するインダクタンス |
被告準備書面(2)11頁20行ないし23行で被告が主張しているLについて、被告は「二次巻線全体」の漏れインダクタンスであると主張しているが、それならば二次側漏洩磁束が二次巻線を貫いていなければならない。
しかし、甲第17号証写真6及び図4(なお、甲第17号証の最後の図4は、図10の誤記である)で示すように、二次巻線の途中から徐々に漏れる漏洩磁束が観測されている以上、そのような漏れ磁束(磁束2)は本件特許の特徴的な漏れ磁束であり、そのような磁束2と二次巻線とが鎖交してできるインダクタンスは「該一次巻線から離れた疎結合部分」から発生する本件特許の漏れインダクタンスである。
本件特許の特徴である二次巻線途中から漏れ出す磁束の発生原理は、被告乙第4号証の意見書にあるとおりである。
発明の原理説明は特許の取得要件ではないが、本件の特許がパイオニア的発明であるので述べたものである。
このパイオニア的発明によって、従来原理とは異なる超小型でかつ高性能のインバータ技術を提供することにより液晶バックライト業界にもたらした功績は非常に大きいものであった。 |